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2007年6月11日 (月)

漫画の時間

前にも書きましたが、私は無類のマンガ好きです。マンガには毎月最低5千円は遣っているでしょう。油断していると、このブログがすべてマンガになってしまいそうないきおいです(苦笑)。

そんな私が、もしマンガ関係で1冊だけ挙げよ、と言われたら、間違いなくこの本を推薦します。

「漫画の時間」いしかわじゅん著(晶文社)

いしかわじゅんさんは、マンガ家ですが、この本の出版と、NHKの「BSマンガ夜話」以来、マンガ評論家としての顔も有名です。この本については、ネットで検索すればさまざまな論評が掲載されています。その多くは、いしかわさんのマンガ評論の視点に対して述べていますが、私は、この本の白眉は、まちがいなく冒頭に書かれた文章「漫画の読み方」にあると考えます。

漫画は大雑把に言って<絵>と<字>とで成り立っている。

という書き出しで始まるこの文章は、次の5つのポイントで書かれています。

  1. オリジナリティを見ろ
  2. 工夫を見ろ
  3. 手抜きを見ろ
  4. 洋服を見ろ
  5. 動きを見ろ

「オリジナリティを見ろ」では、マンガ界における「ぱくり」の多さと志の低さを嘆きながら、模倣と影響の明確な違いについて説明しています。近ごろ注目されている知的財産教育の教材として使えそうな文章です。
「工夫を見ろ」では、自身がマンガ家であることを生かして、読者にはわからない作家の工夫を明らかにして、マンガの魅力を伝えています。「手抜きを見ろ」では、マンガにおける手抜きの事例を示しながら、成長を止めてしまった(かに見える)マンガ家への批判を展開。「洋服を見ろ」ではマンガとファッションの関係を示しながら、マンガにおけるファッションが映画の場合と同じように、演出上重要であるにもかかわらず、無頓着な作品があることを嘆いています。
そしてもっともおもしろいのが最後の「動きを見ろ」です。ある有名マンガ家の絵を引き合いに出しながら、「絵はうまいがマンガが下手」という場合のあることを具体的に説明しています。

何度も書きますが、いしかわさんは、マンガ家です。つまり、ここでの批判や嘆き、叱責は「じゃあ、おまえはどうなんだよ」という逆批判を巻き起こす危険性が常につきまとうわけです。にもかかわらず、同業者を舌鋒鋭く批判するのは、マンガに対する強烈な愛情からでしょう。それゆえ、批判も賛辞も、明確な理由の元に書かれています。その理由も「おお、そんな見方があるのか」という新鮮なものがほとんどです。
いしかわさんはこの本の中で「ぼくは、1冊のマンガをゆっくり読んでいいなら丸一日かけられる」と書いています。それだけつぶさにマンガを読んで(凝視して)いれば、こういう着眼点も見えてくるのだろうなあと思いました。

「批判や叱責は、深い愛情を持って行い、必ず理由を述べる」というのは、教育書ならたいてい書いてあることですが、理由を示すことは案外難しいものです。ましてや、自分自身への批判が返ってくることが容易に想像できる状況では。しかし、いしかわさんのように対象を凝視していれば、その理由も見つけられるのだろうなあと感じました。
振り返って、自分は愛情に満ちた意見ができているかといえば、甚だ疑問です。「親」とか「管理職」といった権力を笠に着て物言いをしているのがほとんどです。いしかわさんのスタンスを肝に銘じたいと思います。

最後に、川崎のぼるの巨人の星、ちばてつやのあしたのジョー、いずれも同一原作者(梶原一騎)によるマンガなのに、後年の評価が大きく異なる(巨人の星はしばしばギャグに使われるが、あしたのジョーは名作と称えられる)理由についての論評は、一読の価値があります。マンガ好きの方は、ぜひお読みください。

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