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2007年7月 5日 (木)

地下鉄(メトロ)に乗って

ここ数年「わかりやすく書く」「上手に伝える」といったことばかりを考えていたので、いきおい、そうした読書が中心になっていました。先日ズッコケ中年三人組を読んで、「たまには小説も読まないとだなあ」なんてことを考えて、このところ立て続けに小説ばかりを読んでおりました。
そんな中で、かなりおもしろかったのが、この本です。

「地下鉄(メトロ)に乗って」浅田次郎著講談社文庫

浅田次郎さんの文章は、これまで飛行機会社の機内誌のコラムとか、短いものしか読んだことがありませんでしたが、これは、吉川英治文学新人賞を受賞した作品だそうです。

昨年秋に映画化されたそうですので、ストーリーはご存じの方が多いと思いますが、簡単に紹介します。

地下鉄永田町駅の階段を上ると、そこは昭和30年代の新中野駅。30年前に自殺した、主人公の兄(少年時代)に遭遇する。巨大企業のトップに君臨する父に反発して自殺した兄。それをきっかけに家を出た主人公。その後タイムスリップを繰り返す主人公は、反発していた父の真実を徐々に知ることになる・・

私の書いたあらすじでは、なんだか安物のSFみたいになってしまいましたが、この作品ですばらしいのは、タイムスリップして別の時代に移るときの描写です。映像であれば、時代が変わったことは見れば分かります。しかし文章では、そうはいきません。
この作品で主人公は、何度もタイムスリップをする中で、父の実像に迫りますから、そのときの描きかたはとても重要です。
たとえば、昭和30年代にスリップした時は、関わった大学生のファッション描写()、終戦直後に行ったときは五感にうったえる描写()で表現しています。

ぴかぴかに磨かれたリーガルのローファー
整髪料のにおいが鼻についた~バイタリスだ
凍えるほどの寒い晩だが、空気はじっとりと湿っている。
すれ違う誰もが饐えた体臭を放っており

読了後、タイムスリップ場面だけ読み直して、あらためて「うまいなあ」と思いました。とりわけ嗅覚に訴える描写です。確かに嗅覚は、記憶に直結している気がします。

浅田さんは、作家になる前、川端康成さんの文章を視写して表現を勉強したと何かの本で読んだことがありますが、さもありなんと思えるほどの描写力です。考えを伝えること以上に、情景や心象を伝えるのは、さらにさらに難しいことなのだなあと、この本を読んで、あらためて思いました。

心を伝えるブログも書けたらいいなと思います(涙)。

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