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2007年8月13日 (月)

人は仕事で磨かれる

ここ一、二年、何のために働くか、ということが気になるようになりました。必死になって仕事をしていた三十代の時は考えもしなかったのに、そんなことを考えるようになったのは、シビアな判断をする場面が多くなってきたからではないかと思っています。

「人は仕事で磨かれる」丹羽宇一郎著(文春文庫)

そんなとき、週刊誌の書評欄でこの本を知りました。

丹羽さんのお名前自体は、ビジネス雑誌でよく取り上げられていたので知っていました。伊藤忠商事の社長(当時)で、会社の業績が悪いときに給料を返上したり、3950億円もの特別損失を単年度で計上したりと、とにかく「変わった経営者」というイメージで語られることが多かった方だと認識しています。しかし、本を読んでみると、丹羽さんが普通で、ほかの経営者が変わっているのではないかという思いが湧いてきました。

たとえばこの本の表紙。地下鉄の階段を上がってくるのは丹羽さんですが、その顔は少しも笑っていません。憮然としているようにさえ見えます。さて、日本の一流企業の社長さんで、地下鉄を使って通勤している人は、果たして何名おられるでしょうか。丹羽さんはその理由を、「世間の感覚を保つため」と「社長なんて会社を辞めればただの小父さんだから」と書かれていますが、次のようにも説明しています。

しかし人間ですから、自律自省の精神を持ち続けることは決して簡単なことではないんです。紀州藩の藩主だった徳川頼宣は、悪いことをしてお師匠さんにつねられ、痣を作った。(中略)人間が倫理観を持ち続けるためには、何らかの痣となるものが必要なのです。

つまり地下鉄通勤は丹羽さんにとっての「痣」。この本の表紙となったのも、きっとそういうわけでしょう。会社の方針を「クリーン、オネスト、ビューティフル」と定めたのは、こういう背景があるのだと思います。

しかしいくらクリーンでも、仕事ができないことには、会社は立ちゆきません。丹羽さんは、仕事において「涙が出るほどの感動を味わえ」と書いています。

感動や感激ならスポーツ観戦にもあるという人がいるかもしれません。しかし(中略)一時的な熱狂はすぐに消え去るものです。(中略)人の心にいつまでも残る感動や感激が仕事にはあります。緊張を伴う仕事であればあるほど、(中略)人間として一回りも二回りも成長していくことができる。「人は仕事で磨かれる」という真意はここにあるのです。

丹羽さん自身、社長時代にいくつものしびれるような経営判断をされてきました。3950億円もの特損計上、ファミリーマートの買収など、一歩間違えば会社が傾くような判断です。そうした判断をさまざまな調査によって行い、実際に行動に移す中で、人間として成長できたのだそうです。私が現在している判断など、それとは比べようのない些末なものですが、それでも少しは成長できたかなと思える部分もあります。

本当に迷うばかりの毎日、この本には、ご紹介した内容以外にも、多数の示唆に富んだフレーズがあります。とりわけ人材育成の視点について。その視点については、敢えてここでは書きません。詳しくはぜひ本書をお読みください。

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