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2007年11月15日 (木)

カエルの死

タイポグラフィクションカエルの死」夢枕獏著(光風社出版)

タイポグラフィクションという言葉は、おそらく夢枕さんの造語です。通常の本は、文字や絵(図版)、あるいはその組み合わせで成り立っていますが、この本では、文字を絵、あるいは記号として使って物語を表現しています。
夢枕さんは、この本の後書きで「この本は、小説の棚にも、コミックの棚にも、絵本の棚にもどの棚にならんでもおかしくない本」と書いています。まさしくそんな本です。

とはいえ、「文字を絵として使う」といわれても、何のことやらさっぱり分かりませんよね。実際のページを紹介しながら説明します。

Kaeru2 左は、「タイポグラフィック音楽(ジャズ)」という章の「どんたとぴ-山下洋輔氏に-」という作品のクライマックスです。音楽をグラフィック、というか、文字という絵で表した作品と言えるでしょう。古来、音楽を絵にしたり、絵を音楽にした人は多数存在すると思いますが、文字にした人はそんなに多くはないのではないでしょうか。

Ie 左は、三好達治の有名な「雪」という詩(太郎の家に雪降り積む、というあれです)を表現した(たぶん)作品です。黒色の背景に小さく書いてあるのは、「雪」という漢字で、その漢字が、ところどころで回転しています。本当は、「家」という漢字の上に乗っている雪も雪という文字で作りたかったのだと思いますが、当時の印刷技術では難しかったのだろうと思います。

Manga 次は漫画のタイポグラフィクション。左は、「そして誰もいなくなった」というタイトルの作品です。このページの前に2こまあって、「石」の上に複数の「げこげこ」がいるのですが、このページにも登場する「にょろにょろ」が通過すると、「石」の上には、何もいなくなり、このページになります。

もともと漢字という文字自体が、絵を元にしていますから、こうしたさまざまな表現が可能になるのでしょうね。昔からなぞなぞで「なんと読むのでしょう」というのがありました。

  • 金持ち(答え:大金持ち)
  • 役人(答え:小役人)
  • 坊主(答え:茶坊主)

こうした遊びを発展させたのが、このタイポグラフィクションです。これは夢枕さんの造語で、タイポグラフィ(印刷・組み版)+フィクション(お話)という意味なのでしょう。
引用をし過ぎて長くなりすぎました。この本で最も驚いたのは、この作品が、SF作家として有名な夢枕さんのデビュー作ということです。コンピュータによるグラフィック作成が一般的になった今では想像できないかもしれませんが、こうした作品を印刷しようとすると、当時は大変な手間がかかりました。手間=コストですから、新人作家にそれだけのコストをかけて本を出す出版社がいるということがまず奇跡です。(もっとも、夢枕さんは、デビュー前から筒井康隆さんが高く評価していたようですが)
残念ながらこの本は、現在絶版になっているようです。この本を購入したのはもう20年も前になりますが、この本を読み返すたびに、出版という事業を経済活動ではなく、文化活動としてとらえていた出版社が、1980年代前半には、まだ数多く存在したということをしみじみ思い出すのであります。

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