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2007年11月26日 (月)

小学生日記

「小学生日記」華恵著(角川文庫)

この本は夏に近所の書店で見つけました。「ほほう、小学生が書いた文章か」と興味を持ち、毎日家でだらだらしている中学生の娘にカンフル剤のつもりで与えました。「おい、小学生でもここまで文章が書けるんだぞ」と言って。
しかし、今回自分で読んでみて、そうした自分の浅薄な認識と思いこみを大いに反省しました。これは立派に小説です。

「解説」で作家の重松清さんが書いておられますが、この本に収録されている文章はすべて小説と言っていいでしょう。小学生の作文や、私の書くブログと、小説のどこが違うかと言えば、読者を引きつける力の強さだと私は思います。この本の著者、華恵さんは、そうした、いわば読者引力のある文章を書くことのできるプロの作家です。

収録作品中、私がもっともうなったのが、「ポテトサラダにさようなら」という作品です。場面緘黙のエリカちゃんとの友情を描いたこの文章は、最後の行に「第五十二回全国小・中学校作文コンクール文部科学大臣賞受賞作品」と書いてなければ、誰もが、プロの作家が書いた短編作品と思うことでしょう。それくらい質の高い作品です。とはいえ、実際には大人の作家ではおそらく書けないと思われる表現が随所に見られます。たとえばエリカちゃんが教室で押し黙ってしまう場面で、みんながいらいらする様子の描写には次のようなものがあります。

  • 一番後ろの男の子がいすを後ろにギコギコゆらしながら
  • 気まずい空気。机につっぷす子、顔を見合わせて首をかしげる子・・・
  • 先生があきらめたときは、休み時間はもう半分も残っていなかった

などなど。このあたりは小学生でないと書けない表現ではないでしょうか。非常にリアリティがあります。うまいなー。(華恵さん風)

毎週読んだ本の感想を書き付けている私ですら、読んだ人が本に興味を持ってくれたら、と思いますし、印象的な文章を書きたいといつも思っています。これでも、毎度何度も書き直しているのです。しかし、納得できる文章が書けたのは、まだ1,2度にすぎません。100メートルを10秒台で走りたいと思っても、限られた人にしかできないように、こういうのをもしかすると才能、というのでしょう。

この本のために書き下ろしたのであろう「受験まであと100日」や「昼間の電車」を読みながら、これまで私がこだわってきた「伝える」「説明する」といった文章力は、読者引力の前では児戯に等しいなあ、とぼんやり考えました。30歳も年下の作家の文章を読み、気持ちを伝える文章を書く、ということについて考えさせられました。

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