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2008年3月24日 (月)

自虐の詩(上)

「自虐の詩(上)」業田良家著(竹書房文庫)

かつて「週刊宝石」(光文社)という週刊誌がありました。80年代から90年代にかけて、おじさんから若者まで、比較的幅広く受け入れられていたのではないかと思います。私も結構購入していました。
人気の理由はいくつかあったと思うのですが、漫画のクオリティが高かったことが大きいと思っています。とりわけ本書「自虐の詩」は、泣ける漫画として長いこと連載されていました。

「自虐」とは、辞書で引くと「自分で自分の体や心をいじめ苦しめること」とあるように、この漫画の主人公「森田幸江」は、自分から好んで不幸な毎日を送っているように見えます。およそのストーリーは次のような感じです。

幸江は内縁の夫、葉山イサオと暮らしている。イサオは働かずギャンブルや酒浸りの毎日。幸江が職を探しても務まらない。気に入らないことがあると、すぐにちゃぶ台をひっくり返す。場合によっては、気に入らないことが無くてもひっくり返す。幸江があさひ屋(定食屋)で働くなどして得た、なけなしのお金を奪い取っていくこともしばしば。しかし、ごくたまにイサオが見せる優しいふるまいに幸江は幸せを感じる。

とはいえ、この作品は、通常のストーリー漫画ではありません。基本は4コマ、もしくは5コマの漫画です。コママンガですから当然、最終コマにはオチがあるのですが、登場人物が共通しているので、一つの大きなストーリーが展開されている、というように読むことができるというわけです。

この漫画が週刊誌に連載されていたのは、本書のあとがきによれば1985年~90年。ちょうど日本経済がバブルに向かって頂点を極めた頃です。平均株価が3万円を超え、土地の値段はうなぎ登り、政府は地方自治体に一律一億円を配る政策を打ち出しました。東京では昼夜無くお祭り騒ぎが繰り返されていましたし、タクシーは、夜になればまったくつかまらない状態でした。今にして思えば異常な時代です。
こんな時代にあって、業田さんは、貧乏で虐げられる女性を主人公とした漫画を書き始めたわけです。その心境は、どのようなものだったのでしょうか。

思うに当時人々は疲れていたのだと思います。お金はあるが満たされない、何かに追い立てられるような人々を見て、業田さんは「お金はないし、虐げられるのだが幸せ」というキャラクターを描くことを思いついたのではないでしょうか。

本書の帯には「日本一泣ける4コママンガ」と書いてありますが、本書のあとがきで内田春菊さんは「創造力のない人には泣けない」と書いています。

いくらギャグの形をとってても、登場人物にひどい経験をさせてるなという気持ちは、描く側にとっては同じなのね。この表現方法をとったからこそ、業田さんは頭の中でこのひどい経験を一回消化して、このあっさりした形が出てくるまで、自分一人で苦しまなくちゃいけないのよ。それは読む側には絶対に分からない努力なんだよ。

漫画を読むのに、作家の努力を知る必要は必ずしもありませんが、創作の背景を知っておくと、より楽しめると思います。今回紹介したのは上巻のみでしたが、下巻はかなり泣ける作品が収録されているとのことです。業田さんの描く「不幸」を味わってみてはいかがでしょうか。

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