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2008年4月 7日 (月)

自分の体で実験したい

「自分の体で実験したい命がけの科学者列伝」レスリー・デンティ+メル・ボーリング著・梶山あゆみ訳(紀伊國屋書店)

書店でこの本を見かけたとき、反射的に購入してしまいました。「サイエンス」のコーナーに並んでいましたから、ちゃんとした科学の本なのだろうと想像しましたが、英国紳士風のおじさんが何かを飲み込もうとしているイラストに惹かれました。しかもイラスト全体が銀の箔押し。帯には「勇気か、科学への愛か」なんて書いてあります。出版社が紀伊國屋書店。「へ~本も出しているんだ」

こんなおかしな本を買うのは、たぶん私くらいだろう、と思って、奥付を見てみると、なんと第四刷。しかも発売後3か月で四刷になっています。すごいsign03

考えてみると、私たちは毎日、直接的にも間接的にも科学の恩恵に浴しています。これは、以前に誰かが調べた成果ですが、本書は、その調査を自分の体で行った、勇気あふれる、好奇心豊かな、使命感に燃えた、ちょっと変わった科学者の物語です。自分の体を使って実験することを、「自己実験」と言うのだそうですが、科学界では問題視されていたようです。

大きすぎるリスクを引き受けて、注目を浴びたいだけではないかと批判する者もいた。…別の懸念もある。自分自身が深く実験に関わるあまり、特定の結果が出ることを無意識のうちに期待してしまい、結果を正確に報告していないのではないか、というものである。

このようなリスクがありながらも、自己実験をせずにはいられなかった人々が、本書では10名取り上げられています。さらに、巻末には、自己実験年表が付いており、この本で取り上げられなかった科学者たちの名前と業績が記載されています。欧米人だけでなく、寄生虫でアレルギーが治るかどうか実験した、藤田紘一郎さんや、アヘン中毒の治療薬を見つけるために自ら中毒になった、ベトナム人医師も紹介されていて、資料性も高い本です。

さて肝心の自己実験部分の紹介です。まず表紙のおじさんは、その消化のメカニズムを調べたラザロ・スパランツァーニ。イタリアでは、故郷には銅像が建ち、デスマスクも額に納められているほど高名な科学者だそうです。昔は、食べた食物は体の中ですりつぶされるとか、発酵するとか、腐るなどと考えられていたのだそうです。スパランツァーニは、それを実験で確かめようとして、亜麻袋や木筒に食べ物を入れて飲み込む実験を繰り返しました。そして消化液が重要な働きをしていることなどを突き止めます。
そのほか有名なキュリー夫妻の自己実験(放射線治療の道を開いた)、世界で初めて心臓カテーテル法を成功させた医師、スピードと減速Gの限界に挑戦した人など、さまざまな「偉人」が紹介されています。中には、実験で命を落とした実験(ペルー熱の原因を探った)も紹介されていますが、それぞれの実験の経過をよく読むと、その方が運悪く命を落としたのではなく、他の人が運良く助かった、というのが本当でしょう。減速Gの実験で、目玉が重力で飛び出しそうになり失明しかけた、などという記述は読んでいて気分が悪くなったほどです。それくらいどれも危険で過酷な実験です。

このように、実験の様子がなぜよくわかるかというと、本書がもともとアメリカでティーン・エイジャー向けの書籍として出版されたものだからです。実験の動機や手順、その今日的意義など、中高生が科学に興味が持てるような逸話や情報が子細に記載されています。著者のレスリー・デンティは、ニューメキシコ大学の先生、メル・ボーリングは、中学・高校の先生です。それゆえ、このブログでは教育書のカテゴリに分類させていただきました。

「理科は嫌いだけど、実験は好き」という中高生は少なくないと思われます。若者の理科離れが言われる昨今、中高生にぜひ読んでもらいたい一冊です。

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