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2008年4月 3日 (木)

もしもあなたが猫だったら?

「もしもあなたが猫だったら?『思考実験』が判断力をみがく」竹内薫著(中公新書)

「もしも○○が~だったら」というのは、古今東西さまざまな文学や演劇のテーマとなってきましたが、本書は、そのことを科学的アプローチで考える、というものです。著者の竹内さんは、それを思考実験と呼んでいます。本書のテーマはこの思考実験です。

「思考実験」という言葉が、科学者で一般に使われている言葉なのか、はたまた竹内さんの造語なのかは分かりませんが、本書で竹内さんは「くだけて言えば『脳内シミュレーション』」と説明しています。つまり、計算機や模型を使わず、純粋に頭の中だけであれこれと想像を巡らす思考活動のことでしょう。本書には、大きく7つのテーマで思考実験が展開されています。

竹内さんは、一時期、日本テレビの「NEWS ZERO」で科学ニュースのキャスターをしていたのでご存じの方も多いことでしょう。難しい内容を易しい言葉で説明するのが上手な方、という印象でした。ベストセラーである「99.9%は仮説」もそうでしたが、本書も、語りかけるような独特の口語体で、難しい内容の説明を、できるだけわかりやすくしようとされています。
アマゾンの書評等では、この文体が理系の方々から極めて不評のようですがthink、私はすばらしい試みだと思います。難しいことを難しく書くのは誰でもできますが、易しく書くのは、非常に難しいのです。だからといって正確性を犠牲にして良いのか、という批判もあるでしょう。しかしそれでも、あえて「それでよいのだ」と答えたい。そういう試みが重要だからです。

さて前置きが長くなりました。本書は、思考実験を平易なものから難しいものへと毎日一つずつ、一週間読み進めていく形を取っています。

  • 第1日:もしもあなたが猫だったら?
  • 第2日:もしも重力がちょっぴりだけ強かったら
  • 第3日:もしもプラトンが正しかったら
  • 第4日:もしもテレポーテーションされてしまったら
  • 第5日:もしも仮面をつけることができたら
  • 第6日:もしも小悪魔がいたならば
  • 第7日:もしもアインシュタインが正しかったならば

書籍タイトルと同じ「もしも猫だったら」は、猫と人間の視覚の違いから、世界の見え方について「実験」します。この中で述べられている、「絵の具を混ぜても物理的に違う色になるわけではなく、人間が違う色として錯覚しているに過ぎない」という指摘は、私にとって非常に新鮮でした。確かにカラー印刷は、4色の点を組み合わせて行われていて、実際にそれぞれの色のインクが使われているわけではありませんが、絵の具でもそうだ、というのは新鮮な驚きでした。そういえば、「きゅうりにハチミツを掛けるとメロンの味」とよく言われますが、これと同じ現象なのでしょうね。

また、「アインシュタイン」のところでは、相対性理論がカーナビなどで実用化されているという話が面白かったです。光の速さに近づいたり、重力が弱いところでは、時間の進み方が相対的に遅くなるというこの理論のおかげで、私たちはGPS機能を使えるのだそうです。GPSの人工衛星は、地上の時計と比べて一日に10万分の4秒だけ進むのだそうです。こんな微々たる時間でも、これを修正しないと距離にして10kmほどずれてしまうのだそうで。なんだかよくわかりませんが、すごいことですsign01

その他エントロピーや量子のテレポーテーションの話など、難しくてついて行けない話題もありますが、それでもなんとなく、科学的考え方に触れる喜びがあります。考えるためのヒントがあります。日ごろ実用書や文学作品ばかり読んでおられる方には、ぜひお薦めしたい本です。

最後に余談を一つ。「球が止まって見える」と言ったのは、本書では「長嶋茂雄さん」となっていますが、これは川上哲治さんの間違いです。ただ、以前編集者だった私に言わせれば、これは、編集者の責任です。最近は、著者任せ、企画任せと思われる本が非常に多いと思います。よく「本離れ」などと言われますが、責任は出版社や編集者にもあるのではないでしょうか。

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