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2008年5月29日 (木)

イキガミ

「イキガミ 1~5」間瀬元朗著(小学館)

原則として、このブログで紹介するマンガは、単発ものか単行本として完結した連載ものに限ってきました。連載マンガでは、途中で設定や画風が変更されることなどしょっちゅうですし、唐突に終了してしまうものもあり、結末まで読まないと、作品について語れないかなと思っているからです。

しかし、今回は、まさに現在「ヤングサンデー」にて連載中の作品を紹介したいと思います。ひさびさに、どきどきするほど面白い作品です。以下にこの作品の設定を書きます。

舞台は、「国家繁栄維持法」という法律のある国。この国では法律に基づき、小学生の時全員に「予防接種」がされる。この注射には1000人に1人の割合で、殺人カプセルが入っており、カプセルは、18~24歳のあらかじめ設定された日時に破裂する。本人はその事実を、破裂の24時間前に「配達員」の配る「逝紙(イキガミ)」によって初めて知らされる。若者は、死が目前に迫っている分、犯罪をしなくなり国家が繁栄する、というのがこの法律のねらいなのだが…

物語は、配達人に任命された藤本を狂言回しとして進行します。彼は、法律に対して疑問を抱きながらも、職務を忠実に遂行し、様々な人に「最期の24時間」を通知します。知らされた人間の反応は、積年の恨みを晴らす者、人に感動を与え最期を輝かせる者…など様々。単行本1冊につき、2本のドラマが展開され、基本的には「イキガミ」を受け取る人がその回の主人公なのですが、受け取った人の恋人など周辺人物が主人公の場合もあります。

この物語に厚みを加えているのが、「国家繁栄維持法」を維持するためのシステムです。法律への疑義を口にする「危険人物」を探し出す「国繁警察」が社会に溶け込んでおり、検挙されれば、「退廃思想」の持ち主として再教育か、処刑されてしまいます。警察だけでなく一般市民も、「危険人物」を密告でき、密告者は英雄とみなされるのです。さらに、「イキガミ」を受け取った人の自暴自棄を防ぐために、その犯罪行為には厳罰が用意されています。

国が計画的に国民を殺して行くというのは、かなり荒唐無稽な設定ですが、間瀬さんの卓越した画力と構成力のおかげで十分現実味のあるものとなっています。五人組を思わせる、相互監視のシステムと、それを是とする多くの国民。たまに制度に異を唱える人物が登場しますが、警察や密告者によって消される、という構成のおかげで、この国の異常さが浮き彫りになっています。また、時折挿入される、この法律の成立までの歴史がこの物語の設定に厚みを与えています。
一方、物語の大半を占める「最期の一日」のドラマは、読者に「生きるとは何か」「自分なら一日をどう過ごすか」という思いを引き起こす工夫があります。まず登場人物の職業が普通です。コンビニの店員、ストリートミュージシャン、福祉施設職員、高校生などなど。彼らは若いながらも背負ってきた人生があるため、最期の一日という現実を前に苦悩します。その苦悩が、間瀬さんの画力によって、リアリティを伴って読者に伝わります。
そして否応なくこのドラマに直面させられる、藤本という狂言回しの存在により、読者は「そもそもこの法律さえなければ」という思いを抱かされます。まことに巧みな構成です。

最近日経BP社が行った調査によれば、日本は「国にどうにかして欲しい」と考える人が多い国だそうです。世界でロシアに次いで2番目、しかもこの2国だけが、80%を上回っていました。テレビのコメンテーターも、しかつめらしい顔で「国による早急な対策が必要」なんてよく言います。しかしこの作品を読むと、少し考えが変わるでしょう。何でも国に決めてもらうことは、楽で安全なことかも知れませんが、幸せなことなのでしょうか。

昨今あらすじと結末を知ってしまえば、それで終わり、というテレビドラマやマンガが少なくない中、人生の歩み方、国と個人のあり方など、様々なことを考えることのできるマンガでした。2008年5月現在単行本は5巻まで刊行されています。今後の展開がとても楽しみです。

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