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2008年5月 8日 (木)

「ニッポン社会」入門

「『ニッポン社会入門』英国人記者の抱腹レポート」コリン・ジョイス著/谷岡健彦訳(NHK出版生活人新書)

昔から「日本人ほど日本人論の好きな民族はいない」とよく言われます。実際そうした本は星の数ほど出版されていますし、かくいう私も、その手の本は、これまでずいぶん読んできました。「菊と刀」、「不思議の国、ニッポン」といった、この分野の古典とも言える有名どころはもちろん、「和をもって日本となす」などのスポーツもの、「ここが変だよ日本の営業」といったビジネスものなどなど。書棚を見渡すと、よくもまあcoldsweats01という感じです。

しかし本書は、それらとちょっと違いました。上質のユーモアで日本文化や日本語を生活者の視点で論じています。日本人が日本に対して認識を新たにしながら、同時にイギリスを知ることができる、そんな本です。

これまで私が読んだ日本人論は、どちらかというと「反省、自戒、苦笑」といったキーワードで表せる、いわばお勉強的な内容でした。これを読んで私たちは「そうかshockそんなに普通じゃないのか」と打ちのめされるふりをして、実は「へへっ、俺らは特別だよsmile」と内心ほくそ笑んでいたのではないでしょうか。外国人に叱られて喜ぶ、とでもいいましょうか、そんな感じです。

一方本書は「ユーモア(ジョーク)、人情、自国愛」というキーワードで表せます。とりわけ第九章の「イギリス人をからかおう」は笑いました。イギリスでは、上質なからかいのことをwind-upというそうで、顔色一つ変えずに信じられないくらい面白い一言を言うのがポイントなのだそうです。ジョイスさんが考えたジョークはこんな具合。

  • 日本人はたいてい流ちょうに英語を話せるが、慎みの文化があるので話さないだけ。「ずっと英語で話しかければきっと返事をしてくれるよ」
  • 朝、混雑した電車に無理に乗る必要はない。「次の電車を待てばいいよ。すぐに来るから。それも混んでいたら次のを待てばいい」
  • 名前に「さん」をつけると丁寧になり「様」はさらに丁寧な形。そして最上の敬意を表したいときは「ちゃん」をつける
  • 寅さんは「ジャパニーズ・ジェイムス・ボンド」
  • 日本のお土産に、ポプリをあげるといって鰹節をあげよう

「本を読んで爆笑する」ということは、あまりないのですが、この章を読んだときは涙を流して笑ってしまいました。ジョイスさんにからかわれたイギリス人の困惑が目に浮かぶようです。

こうしたジョークが書けるのも、ジョイスさんが観察者ではなく、生活者として日本を見ているからでしょう。ジョイスさんの自転車が壊れ、近所のボルト工場に出かけたらおじさん(ジャパニーズ・ジェントルマン)が無償で修理してくれた話や、「トーキョー『裏』観光ガイド」などは、日本になじんで生活しないとなかなか知り得ないことばかりです。

そしてイギリスとの比較。「イギリスの食べ物はまずいものばかり」「イギリスと日本は似ている」といった、まことしやかに語られている誤解を、具体例を示しながら解いていきます。さらに「デイリー・テレグラフ」紙の東京特派員としての仕事から、イギリス人が日本に対して抱いているステレオタイプな誤解についても嘆いています。イギリスを語りながら、日本が分かるという、とても面白いコラムです。

本書は全部で17の章からなっていますが、第三章の「イライラ、しくしく、ずんぐりむっくり」は、国語科のオノマトペ学習の教材として、第六章の「英国紳士とジャパニーズ・ジェントルマン」は、道徳教材としてそのまま使えるのではないかと思いました。それくらい、引き締まったよい文章です。
どこかの先生が、授業でお使いになることを期待しています。

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