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2008年5月 1日 (木)

村上春樹、河合隼雄に会いにいく

「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」河合隼雄・村上春樹著(岩波書店)

だれにも1冊は、折に触れて読み返す本があるかと思います。私にとっては、本書がその中のひとつです。最初に読んだのは、まだ編集者だったときでした。当時は、「こうした本が作れる編集者になりたいなあ」と思ったものです。
ですが、同時に自分には到底不可能だとも思いました。ベストセラー作家の村上さんと、高名な心理学者河合さんの対談、しかもそれを、オウム真理教の事件の直後に企画するのですから、すばらしい編集力です。

もう一つ私がうなったのは、本書のページデザインです。対談を魅力的に読めるような工夫がされていました。

Page_2 左の写真を見てください。村上さんと河合さんの対談は、中段の明朝体の部分で進行していきます。本書は第一夜と第二夜の二部構成ですが、第一夜においては、対談中の河合さんの思いが頭注として、村上さんの対談中の思いが脚注としてレイアウトされています。第二夜ではそれが逆転し、村上さんが頭注、河合さんが脚注となっています。(残念ながら文庫版はこのレイアウトではありません)

二人の対談は、現代人(当時)の精神世界について語られていますから、対談中の発言には、注が必要になることが多々あります。それを編集者が解説するのではなく、対談する二人それぞれに語らせ、しかも同時に読ませる興味深いデザインです。これにより、通常の対談よりはるかに読みにくくなってしまっているのですが、逆に、読み直すのが楽しみなレイアウトとも言えます。ユニークで、本書の中身に良く合った優れたレイアウトです。
この本の文庫版は、新潮文庫で発行されているのですが、すべて脚注にそろえられているので、こうした楽しみは味わえません。ちょっと残念です。

次に本書の企画です。本書のテーマは、現代人の精神世界について、ということになるかと思います。本書の標題の通り、基本的に村上さんが河合さんに話を聞く、といったスタンスで対談が進行するのですが、「はじめに」で村上さんが、「おわりに」で河合さんが、互いにインスパイアされた、といったような趣旨のことを述べておられます。
編集者によるまとめが上手だったという側面もあるのでしょうけれど、確かに対談は非常に楽しそうに進行し、しかも互いの発言によって、議論がより深まるという場面が数多く出現しました。特に第一夜の最後で語られている、夫婦の関係についての議論や、第二夜での精神分析と治療における日米の差についての議論では、互いの得意分野から本質に迫った議論が展開されています。

対談が行われたのは、村上さんがその代表作の一つ「ねじまき鳥クロニクル」を書き上げた直後。社会的には、地下鉄サリン事件が発生してまもなくの時期です。一種の社会不安が蔓延していた時期、文学界と心理学界それぞれの泰斗が、どんな対話を展開したのか、詳細はあえて紹介しません。興味のある方は、ぜひご一読を。

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