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2008年6月 5日 (木)

和顔愛語

「和顔愛語」坪田耕三著(東洋館出版社)

本書のタイトル「和顔愛語」は、「わげんあいご」と読み、その意味は、文字通り「穏やかな表情(和顔)で優しい言葉(愛語)をかける」 ということのようです。仏教の教えだそうですが、永く小学校の先生をなさっていた、坪田さんらしい書籍のタイトルです。
この言葉は、坪田さんが教師としての座右の銘としていただけでなく、折に触れて子どもたちにも伝えてられていたことが本書に書かれています。確かに短いながらも心に響く、よい言葉です。子どもたちにも、きっと伝わったことでしょう。

本書は、坪田さんが雑誌や新聞、学校文集に書いた文章をまとめたものですが、こうしたタイトルにふさわしく、穏やかで優しいエピソードに満ちた一冊です。

Hira まずご紹介したいのが、本書の造りです。写真が悪いので伝わりませんが、本書を手に取ると、ほんのり緑色に見えます。これはカバーの色ではなく、カバーの下にある、「ひら」と呼ばれる部分に印刷された植物(蔦でしょうか?)の葉の色です。上品な黄緑色の葉薄紫色の花のイラストが、和紙を思わせる半透明のカバーに透けて見えるため、なんとも穏やかなデザインとなっています。
本は見た目も大事です。それが中身とマッチしているのは当然として、相乗効果をもたらすのが理想ですが、コストの問題もあり、なかなか実現は難しいものです。本書はそれが実現できているため、魅力的な本に仕上がっています。

さて前置きが長くなりました。坪田さんは、算数教育の世界ではかなり著名な方です。NHKの教育番組にもたびたび出演されています。ですから、算数教育関連の話題がほとんどかと思いましたが、とんだ思い違いでした。確かに割合としては算数の話が多いものの、教師としての心得とか、仕事の意味といった話題もずいぶんあります。坪田さんは読書家で、さまざまな本から刺激を受け、学んだということを本書でも随所に書いていますが、私も仕事に対する姿勢、部下に対する態度など、いろいろ学ぶことができました。

たとえば「授業の技」という文章では、山本周五郎中短編秀作選集を購入し、その各巻に「待つ」「惑う」「想う」「結ぶ」「発つ」というサブタイトルが付けられていることに触れ、次のように書いています。

授業研究会のあと、ハウツー型の質問を受けることがある。(中略)いちいちこまかな方法を人に頼ると、きっとそれ以外のところでは全く使い物にならないのではと懸念する。周五郎の作品の言葉がまざまざと思い浮かぶ。昔の職人のように極意を盗み見ながら、授業方法や授業の本質を自分で会得していかなければ、本当の授業者にはなれないのではないかと感じることしきりである。
またこの選集に心引かれたのは、そのサブタイトルである。「待つ」「惑う」「想う」「結ぶ」「発つ」。これは算数の授業の流れそのものではないかと感じたのである。

ビジネスの現場でも同様です。書店に行くと、企画書の書き方、論理的な話し方といったハウツー本が華やかで、実際そのような本を読む人は多いです。こういう人には、坪田さんの言葉をぜひ読ませたいと思いました。

それから、さすがに専門である算数教育関連の文章は興味深いものばかりです。「ビンキュラム」という文章では、「分数と分母を隔てる横棒を何と呼ぶか」という話題で知的好奇心のことを、「富士山」では「上り新幹線でも進行方向右側に富士山が見えることがある」という話題で思い込みの愚を、「ハンズオン・マス」では、「問題把握→解決→まとめ」とパターン化された算数授業の退屈さを書いています。こちらも非常に楽しく読めました。
ただ、惜しいことに本書を構成する各文章は、話題別とはなっていません。このため読む意識を毎度リセットすることになるので、一気に読み進める場合は、読みにくいと思いました。内容は非常に良いだけにとても残念です。

本書は、易しく短い文章ながら深い内容ばかりなので、ある程度経験を積んでいる中堅からベテランの先生がお読みになると良いでしょう。校長先生の講話のネタ本としても活用できるかも知れませんhappy01。坪田さんの退職記念として出版された本とのことですが、それにふさわしく、仕事の足跡が凝縮された好著です。

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