« 和顔愛語 | トップページ | お手紙ハンドブック »

2008年6月 9日 (月)

お言葉ですが・・・

「お言葉ですが・・・第11巻」高島俊男著(連合出版)

昔から言葉についての本が好きでした。以前紹介したオノマトペの本のように、語義や語源、用法についての本をよく読みます。そのせいか私はこれまで、言葉とは書き言葉つまり文字のことだと思っていました。

ところが高島さんが週刊文春に連載していたコラムに出会って、衝撃を受けました。一つの漢字をどう読むか、どのように発音するか、ということは、実は大問題なのだと言うことが分かったからです。

本書は、その衝撃のコラムをまとめた単行本の第11巻です。私は、二十数年前から週刊文春を購読していますが、高島さんの連載が始まった当初は、どちらかといえば敬遠して読まずにいました。高島さんという方を存じませんでしたし、紹介されていたプロフィールを読んでも何をしている人かよく分からないし、第一文章が、いつも何かに怒っている感じだったからです。実際だれかをこっぴどく批判している記事も少なくありませんでした。
ところが、最初は苦手だったゴーヤが次第に慣れ、最後は大好物になるように、高島さんの連載が始まって2年後くらいには、完全にはまっていました。連載中は、まずそこから雑誌を読んだほどです。

はまった理由は、言葉や文字に関する深い知識です。高島さんは中国文学に精通しておられるので、出典や用例について異常に詳しいのです。そうした背景に基づいて、「Aは間違いであり、実はB」である、と述べることもありますが、「実はAでもBでもよい」「AかBかはわからない」としていることが少なくないのです。一つ例として「刺客の話」というコラムの冒頭を引用します。

ここしばらく、何人もの方から「刺客」についてお話を聞いたり、尋ねられたりした。(中略)お話というのは、そのよみのことである。「シカクと言う人と、シキャクと言う人とがあるけれど、どっちがいいの?」とか「ほんとうはセッカクが正しいらしいね」とか。結論を先に言ってしまうと、みなOKです。どれでもお気に召したのをどうぞ。

以後その解説が書いてあるのですが、さまざまな典拠を示し、それぞれの読み方の正当性を説明しています。どれか一つをとりあげて「他の読みも間違いではないがシカクがおすすめです」なんてまとめ方の方が、きっとずっと書きやすいのだろうに、高島さんはわざわざめんどくさい方を選んで書いている印象です。

他にも「私」をどう読むか、という話題も興味深い話題でした。正しくはもちろん「わたくし」ですが、エッセイ等を音読した際、「私」のすべてを「わたくし」と読むと、あまり美しくない、というのです。ふむ確かに。私もこのコラムで「私」を多用しますが、実のところ「わたし」と読んでいます。教科書的には間違いなのですが、すべてを「わたし」と表記してしまうと、文字数がもったいないですから。

このように、本書および「お言葉ですが…」すべてのシリーズを通じて、文字や文章を読んだときの音について、数多く言及されています。それは高島さんが目を悪くされて、テープを通じて「読書」されていることも大いに影響していることと思われますが、もともと言葉は、話し言葉から始まった以上、音を大切にするというのは、とても大切なスタンスだと思いました。

さらに、連載の単行本化にあたって貴重な仕事がなされています。一つは、週刊誌掲載後読者から寄せられた反応や、その後の調査結果などを各コラムの後に追記していることです。雑誌の連載が単行本化する際、多少の手が入れられるというのはあたりまえですが、本書では、それが事細かになされていて感動します。
二つ目は索引です。全部で11巻になるこのシリーズを通しての索引なので、どの話題が何巻のどこに記載してあるのか、すぐに調べることができます。言葉に関する有益な話題が多数記載されている本シリーズですから、この索引は貴重な資料です。二つとも、高島さんの読者に対する誠実さの表れと感じました。

週刊誌連載中は、いつもここから読むくらい好きなコラムだったのに、今回本書を読んでみると、結構忘れている記事が多いのに驚くとともに自分が情けなくなりました。週刊誌を読んでいれば、それを集めた単行本は購入不要、とこれまでは思っていましたが、その考えを改めなければならないなあと痛感しました。

|

« 和顔愛語 | トップページ | お手紙ハンドブック »

エッセイ」カテゴリの記事

教養書」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/45933287

この記事へのトラックバック一覧です: お言葉ですが・・・:

« 和顔愛語 | トップページ | お手紙ハンドブック »