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2008年6月26日 (木)

かくまきの歌

「かくまきの歌」杉みき子著(フォア文庫)

「わらぐつの中の神様」「春先のひょう」という物語をご存じですか。いずれも小学校の国語教科書に載った作品なのでお読みになった方も多いことでしょう。本書はその二つが収められている短編集です。先日出張で上越市(高田)に出向いた際、地元の古書店「耕文堂」で見つけ、購入しました。
聞けば杉さんのご自宅は、この書店から歩いて数分のところにあるとのこと。尊敬する作家の本を、その方の地元で購入できた幸せをかみしめながら、本当に久しぶりに、本書を読んでみました。

本書には、全部で10編の短編が収められています。表題作「かくまきの歌」は、雪国の生活を描いた作品ですし、教科書に収録されている「わらぐつのなかの神様」も、雪国の生活を描いたものなので、本書を手にしたときは、雪のお話がほとんどかと思っていました。しかしそれは誤解でした。確かに雪が重要なファクターとなってはいますが、中心は少女の成長の物語です。

児童文学において、子どもの成長というのはよくあるテーマですが、本書の場合「生活と子ども」という視点が全面に出ている点に特徴があります。
物語の時代背景は、昭和20年前後。庶民の生活は貧しい上、「戦争」という状況が加わって、貧しい上に不自由さを余儀なくされていました。この状況に、子どもも無関係ではいられません。家の手伝いをしたり、お国のために軍事工場で働いたりします。本書の主人公が経験するのは、こうした状況下での出会いであり、愛であり、葛藤です。戦争経験のない私ではありますが、どれも心にぐっと迫るお話しでした。

特に印象に残った作品は「アヤの話」と「屋上で聞いた話」です。簡単にあらすじをご紹介しましょう。

「アヤの話」は、子守の「アヤ」と「わたし」の話。「アヤ」とは、子守をする人という意味です。貧乏な農家から呉服屋に奉公できている少女なのですが、近所の子どもにはいじめられ、「わたし」もお母さんから「あまり遊ばない方がいいよ」と言われます。しかし「わたし」は、いろんな遊びを知っている「アヤ」と仲良しになります。ある日「わたし」は、「アヤ」に「いいところへ行こう」と誘われますが…

なんともせつない話なのですが、私自身幼い頃こうした子守のお姉さんに育てられた経験があるので、実感を伴って読むことができました。またいじめのシーンもリアルです。昔のいじめは、大人が荷担する場合もあり、ずいぶん陰湿で苛烈だったと思いました。

「屋上で聞いた話」は、お母さんが子どもに、戦争中の話をする話。軍需工場で働いていたお母さんは、勉強も運動も一番だった山本さんと、当時禁止されていた工場の屋上に上ります。屋上からは信州の山へと続く一本の道が見え、二人は自由な気持ちになりますが、すぐに見つかり、こっぴどく叱られます。山本さんはお母さんをかばって罪を背負い、退学させられてしまいます…

これまたせつない話なのですが、「不自由さの中の自由」ということについて考えさせられました。利発な山本さんは、なぜスパイの嫌疑が掛けられるとわかっていながら、屋上へ上ったのでしょうか。お母さんが子どもに語る場所は、当時軍需工場だったデパート、という設定も非常に印象的です。

教科書に掲載されている作品は、あたたかくほんのりした作品が多いですが、改めて本書を読んでみると、芯の通った作品が多いことに気づかされます。杉さんが生まれ、現在もお住まいになっている高田は、日本有数の雪国です。そうした自然環境も、この作品の力強さの一因となっているのでしょう。

本書は、これからも子どもたちや親たちに、ぜひ読み継いでいってもらいたい本です。

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