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2008年7月17日 (木)

チルドレン

「チルドレン」伊坂幸太郎著(講談社文庫)

先日直木賞が発表されましたが、その前に「伊坂幸太郎さんが、直木賞の候補作となることを辞退」というニュースが報じられました。直木賞や、芥川賞と言えば、最も有名な文学賞なのに、その候補になること自体を辞退した、伊坂さんとは、いったいどんな作品を書いているのだろう、と興味を持ち、本書を購入しました。

本書に決めたのは、本の帯に「伊坂幸太郎、まずはコレ!」と書いてあったからです。さらに「祝!本屋大賞」というのも気になりました。この賞は、「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本」ということですから、ハズレはないだろうと思ったのです。

調べてみると、本書は、2005年の本屋大賞第5位に選ばれていました。さらに今年、伊坂さんは「ゴールデンスランバー」という作品で、大賞を受賞しています。どうやら、書店の店員さんから高い評価を受けている作家のようです。

今回一読して、その理由が分かったような気がします。「伊坂さんの他の作品を読んでみたい」と思ってしまうのです。いわゆる「はまる」というやつですね。伊坂さんは、ミステリー作家であり、私はこれまでたくさんの推理小説にはまって来ましたので、そのせいかもしれません。古くは横溝正史さんの作品にはまりましたし、近頃は内田康夫さんの「浅見光彦シリーズ」にはまっています。

本書は5つの短編で構成される、短編集です。5つのお話しのメインプレーヤーは同じで、家庭裁判所調査官の陣内とその後輩の武藤、陣内の学生時代の同級生、永瀬と鴨居です。5つの短編それぞれに、彼らがいつの間にか「事件」に巻き込まれてしまいます。

冒頭の短編「バンク」は、学生時代の陣内、永瀬、鴨居の3名が銀行強盗の現場に居合わせてしまい、人質となる、という話です。事件は意外な形で解決するのですが、この事件の様子を通じて、彼ら3名の性格が明らかにされます。破天荒な性格の陣内と、頭脳明晰で盲目が故に状況「観察」が鋭い永瀬、お人好しの鴨居。さらに、これ以降の短編の伏線となるエピソードがちりばめられています。つまり本書は、5つの短編集とはいうものの、実は一つのつながったお話しということができます。実際、著者の伊坂さんも、本書を「短編のふりをした長編」と説明しているそうです。

この銀行強盗の話は別として、本書のお話しは、すべて陣内たちの青春小説のように始まるのですが、それぞれ練られた謎解きが用意されています。読者は、登場人物たちが「事件」に巻き込まれたことさえ気づかない場合もあります。あまり詳しく書くと、ネタバレになってしまうので、まずいのですが、仕掛けがうまいだけに、謎が解かれたとき、読者は、驚いたり、うなったりさせられます。とりわけ表題作の「チルドレン」は、読者の先入観を逆手に取る謎が仕組まれていて、脱帽でした。これが「はまる」理由ですね。

多くの優れた推理小説がそうであるように、本書はその謎解きの中に「人間」が鮮やかに描かれています。特に陣内の父親との関係は、5つの短編を通じて徐々に明らかにされるのですが、この話自体が一種の謎解きのようでもあり、成長物語のようでもあります。ミステリーの醍醐味と、青春小説のさわやかさを同時に味わいたい方にはおすすめの一冊です。

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