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2008年7月21日 (月)

格差社会と教育改革

「格差社会と教育改革」苅谷剛彦・山口二郎著(岩波ブックレット)

本書は、岩波ブックレットですから、物理的には非常に薄い本なのですが、内容は濃かったです。社会教育学者である苅谷さんの講演と、政治学者の山口さんとの対談2つが収録されています。苅谷さんは、教育の不平等について早くから指摘をしてきた方です。

政治の専門用語など、一部難解なところがありますが、学校の先生など「教育のプロ」に、ぜひお読みいただきたい本です。いま教育の何が問題なのかを明らかにしているとともに、重要な提言が数多くあります。

苅谷さんの講演の冒頭で「外国人研究者との共同研究を行うに当たり『格差』を翻訳しようとして苦労した」という話があります。検討の結果「inequality(不平等)」という訳語を充てるということに落ち着いたそうですが、確かにこのように訳すと「格差社会」という言葉の指し示す中身が、よりはっきりと見えてきます。
苅谷さんは、この前提に立ち教育政策を医療にたとえながら、「全国一斉学力テスト」「教員免許更新制」「教職員の定数削減」の奇妙さ、不合理さを明らかにします。これらは、いわば診断のない医療行為だと。たとえば「教育にお金をかけない割に、英語だ徳育だと学校への要求は増えている」現状に対し、「正しい診断がないのに、薬や栄養をどんどん詰め込んでいる状態」と批判しています。これは、今度の学習指導要領改正の問題そのものです。時間数も教える中身も増えているのに、先生の数や予算を増やそうという話になっていません。苅谷さんは「そのしわ寄せは、必ずどこかに出ている」と指摘しています。

とはいえ、このような状況論だけで終わらないのが本書の価値です。この講演では、さまざまな統計データが示され、それをもとに教育の不平等性が語られます。たとえば、2003年のPISA学力調査の中身を分析し、いわゆる学力低下は、学力下位層の学力が大きく下がったことによってもたらされている、というのです。また苅谷さんは、基本的生活習慣と学力差の関係を1989年と2001年で調べ、89年より01年では、生活習慣の低い層の学力低下がより顕著になっていることを明らかにしています。つまり不平等が固定化しつつあるわけです。この資料は衝撃的でした。

これに続く、政治学者の山口さんとの対談は、まず戦後日本の教育政策を評価するところから始まります。「人材も金もない焼け野原から、一気に中学校まで義務教育化したのは非常に先進的(苅谷)」「日本が経済的に豊かさを達成し、かつ社会的にもかなりの平等を達成した成果は誇るべき(山口)」
つまり、日本の教育にそもそも問題などなかったのだと言うのです。それなのに、地方の財政改革と同じ文脈で、学校たたき、教師たたきが行われ、「教育改革」は、まずい方向に進んでいると言います。

対談の終わりの方で、こうした「教育改革」に対抗するための手段を具体的に提言しています。私は、その意見に一定の合理性があるように感じました。しかし、異論のある方もいるでしょう。私はそれでよいと思います。本書の価値は、現状をできるだけ客観的に分析し、何かアクションを起こさねばならないときである、と主張することにあると思いますので。

現在学校教育に携わっている方や、学校に通う子どもを持つ方に、本書は、ぜひ読んで欲しいと思いました。

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