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2008年8月18日 (月)

集中力

「集中力」谷川浩司著(角川Oneテーマ21)

谷川浩司さんといっても、知らない人は多いかも知れません。今から30年以上前、中学2年生でプロになり、21歳の時に史上最年少で、将棋界の最高位である名人のタイトルを獲得した方です。今は、羽生善治さんの方が有名かも知れませんが、私の世代では、やはり谷川さんがヒーローです。

夏休み、「将棋の本でも読もうかな」と本書を手に取り、奥付を見て驚きました。2000年に発行された後、版を重ねて2005年に第十版となっています。「これだけ読まれるからには、単なる将棋の本ではないはず」そう思って購入しました。

本書は、谷川さんが将棋に出会ってプロ棋士になってから現在までの将棋人生について綴った第一部と、勝負をするために必要な力について書いた第二部とで構成されています。第一分の、谷川少年の努力や、30歳を過ぎ、2度のスランプを経て復活を遂げるまでの過程も興味深いのですが、やはり第二部の方が読み応えがあります。

第二部は4つの章で構成されています。

  1. 集中力
  2. 思考力
  3. 記憶力
  4. 気力

これらの力は、谷川さんによれば、それぞれ連関し合っているのだそうですが、要するに、「今自分はこの力を使っている」と意識することが大切なようです。この4章それぞれに、書き出しが非常に印象的で心に残ります。たとえば、第1章の「集中力」はこんな具合です。

「どうすれば、将棋が強くなれますか?」とは、もっとも良く聴かれる質問である。実は、この質問には肝心な言葉が隠されている。それは「努力しないで」という言葉である。(中略)子どもにはまず、継続的な努力を可能にする集中力を養うことが大切なのだ。

確かにこうした質問は、将棋教室に来た親や、半可通の取材記者が発しそうなことです。そしてこれは、「(努力しないで)集中力が身につけたい」と軽く考えて、本書を購入した、我々読者にも向けられた言葉でしょう。谷川さんらしい、厳しい問いかけです。
とはいえ、「ではどうすれば身に付くか」ということについて、谷川さんは、実績ある先人の数値を例に引きながら、本書で明確に回答しています。その中身については、ぜひ本書を読んでご確認ください。

また、第二章の書き出しは、仕事の上でも非常に参考になりました。

「よく考えなさい」学校の先生や、上司にそう言われて、戸惑ったことはないだろうか。(中略)将棋の大きな要素は、差し手を考える--つまり「読む」ことである。この思考力が勝負を分けるかぎになるのである。

ただ「考えろ」と言っても無意味である、という主張は、耳が痛く、厳しい指摘です。私はこうした指示をよくやってしまいます。この「考えろ」を「読め」と言い換えるのは、とてもよい方法だと思いました。考えろ、という指示よりも具体的ですし、なによりできそうな感じを与えます。「読む」とは、仮説を立てる、ということにも通じるので、さらによいと思いました。

この一方「あとがき」では、「集中しないことも大事」と書いています。こうなると禅問答のようですが、かなり具体的な事例を挙げて書かれていますので、よく理解できます。この集中しない良さについては、有名人・文化人との対談で思いつかれたそうで、このために、このあとがきを、版を重ねる際、書き直したのだそうです。初版の時は30代でしたが、重版の時は40代となり、どうしても触れておきたい内容だったのでしょう。谷川さんの誠実な人柄が伺えます。

全体として本書は、考えるということについて、将棋棋士の目から解説された本です。将棋に興味がない方でも、「考える」ということについて興味があれば、ぜひご一読ください。一人一人違ったおみやげを受けとることができるのではないでしょうか。

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