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2008年9月15日 (月)

大丈夫、生きていけるよ

「大丈夫、生きていけるよ へこんだ日の般若心経」明川哲也著(PHP研究所)

簡単に読めるけれど難解な本、というのがあります。現代詩なんかが、割合そうですし、数学関係の本でもありますね。文字は読めるのだけれど、その意味が胸に落ちてこないのです。

私にとって、本書もそうでした。難しい漢字にはふりがなが付いていますし、とても分かりやすい言葉で解説されています。それなのに一読後、分かって良かった!とは言えませんでした。

学生時代、仏教に入れ込んでいた時期があり、私は、今でも般若心経をそらんじることができます。しかし相変わらず意味は分かりませんweep。理解しようと、あれこれ本を読んだのですが無理でした。最初の方はなんとなく分かるものの、中盤で怪しくなり、最後の方で完全にくじけたのです。本書なら、今度こそ理解できるかも知れない、と思って読んでみました。

とはいえ本書は、基本的にお経の解説書ではありません。生き方を考えるための本です。ですから著者の明川さんは、冒頭で、仏教、般若心経との出会いについて書いています。大学で東洋哲学を学んだ明川さんは、「叫ぶ詩人の会」というロックバンドで一躍有名になります。(当時はドリアン助川という芸名でした)CDの宣伝のため、ラジオの深夜放送のパーソナリティを引き受けるのですが、寄せられるのは深刻な相談ばかり。明川さんは次第に追い詰められます。ちょっと長いですが、そのあたりの記述を引用します。

答えても答えても答えても次々と押し寄せてくる悩みの山。まるでCG映像で作り上げた敵軍のように、地平線の向こうまで悩みの軍団が途切れなく続いています。そして、言葉を重ねれば重ねるほど聞こえてくる「何様のつもりだ」という突き上げの声。ぼくは疲弊していきました。顔では笑っていながらも、そこに引きずり込まれていった人生に戸惑いを覚えました。その結果、すがりついたものがありました。大学を出てからほとんど開くことがなかった東洋哲学関係の書物です。(中略)
ぼくはあらためて東洋的な思想をたどり直し、目からうろこの体験を幾つもし、それを考え方のベースに加えながら、降り注ぐ悩みの嵐の中へと再度飛び出していったのです。その過程において、もっとも鮮やかにぼくを打ちのめし、同時に支えてくれたのが「般若心経」でした。

このように明川さんは、般若心経と「再会」したわけです。しかし、このお経の考えをすぐに理解したわけではなく、その後「ドリアン~」という芸名も捨て、バンドの生活も捨て、放浪生活に入ります。仕事にも、生きることにも意味が見いだせず、悩んでいたのだそうです。このあたりの苦悩は、本書でお経の意味を解説する際に、具体的に語られています。20代前半でロックバンドとして成功したにも関わらず、襲ってくる途方もない虚無感。それと対峙するには、時間も必要だったでしょうし、依って立つ考え方が必要だったのでしょう。それは私でさえよく分かります。

そして、明川さんが、このお経で最も大事な部分という

無無明。亦無無明尽。
(無明がない。無明が尽きて無くなると言うこともない)

の意味が、ある日ふっと降りてきたのだそうです。多摩川べりで、あまり好きではないミュージシャンの曲をラジカセで聴いているときに。ニュートンのリンゴではありませんが、ずっと考えていたことが分かるときとは、案外こういうことなのかもしれません。徐々に分かるのではなく、ある日ずばっと分かるのです。私自身、本書のおかげで「空」という概念が、少し正確に分かったような気がします。ある日ずばっと理解できると良いのですがhappy01

現代は生きにくい世の中と言われます。でも、もしかすると、いつの世も生きにくかったのかもしれません。だから仏陀が生まれ、仏教が存在してきたのではないでしょうか。今抱えている悩みは、もしかすると何百年か前に、誰かが抱いたものと同じかも知れません。般若心経の世界に触れることで、少し楽になるかも知れません。

本書のタイトル「大丈夫、生きていけるよ」というのは、まさにそういうメッセージなのではないかと、私は思いました。

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