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2008年9月29日 (月)

非正規レジスタンス

「非正規レジスタンス 池袋ウエストゲートパークⅧ」石田衣良著(文藝春秋)

本書は石田さんの代表作「池袋ウエストゲートパーク」シリーズの最新作。これまでは文庫化されるのを待っていたのですが、今回は早めに読んでみることにしました。7月に新刊の広告が出たので、9月上旬に購入したのですが、すでに2刷になっています。相変わらずすごい人気です。

このシリーズは、池袋を舞台に、主人公の真島誠が、トラブルに巻き込まれ、それを解決する、という基本構成になっています。毎度若者たちの今が活写されていて、それが作品の魅力なのですが、今回ばかりは、ちょっと考えてしまいました。今回のテーマは、いわば「格差社会」です。

本書は次の4つの短編から構成されています。

  • 「千川フォールアウト・マザー」
    • 昼夜無く働き、息子を育てるシングルマザー。2年ぶりの息抜きが息子の事故につながり、悲劇に巻き込まれて行く。
  • 「池袋クリンナップス」
    • 池袋を掃除するボランティア団体を指揮する男が、ある日誘拐される。彼は大企業の社長の息子だったのだ。
  • 「定年ブルドッグ」
    • 別れた男から脅され、逃げる女。彼女の父親は警察の幹部。誠の活躍で、事件はすぐに解決したように見えたのだが。
  • 「非正規レジスタンス」
    • 日雇い派遣でその日暮らしの青年が、派遣先で大けがをする。誠は、派遣ユニオンの依頼で、不当な行為を繰り返す派遣会社と闘うが。

「格差社会」という言葉がマスコミに登場するようになって久しいですが、私自身、どうにも実感できませんでした。しかし、本書に描かれた「格差」にはかなりのリアリティがありました。おそらく、かなり綿密な取材をしているのでしょう。石田さんは、近頃頻繁にテレビでお見かけするので、作家活動はセーブされるのかと思っておりましたが、とんだ思い違いでした。

そればかりか、メディア批判の要素も描かれています。「千川フォールアウト・マザー」では、マスコミは、お母さんの事情背景を取材せず、「自らの享楽のために育児放棄した鬼親」という報道を展開します。これがきっかけで、母親は自暴自棄になり、悪い男にだまされてしまう、というストーリーです。石田さんは、主人公誠の視点から、無責任な報道を批判するとともに、若いお母さんが、必死に昼夜無く働いても、子どもを安全に預けることすらできない社会に疑問を投げかけます。

さらに読んでいて切なくなったのは、表題作「非正規レジスタンス」です。日雇い派遣で頑張って働くサトシは、派遣会社や雇い主に不平を言うわけでもなく、こうなったのは自分が悪い、と考えています。ネットカフェに寝泊まりしながらも、身繕いには最低限のお金を遣い、「ホームレスにはなりたくない」と考えています。つまり、ネットカフェ難民すら、ホームレスに対し「そこまで堕ちたくない」という階層意識を持っているのです。これはあまりに悲しいではありませんか。

経済大国と言われる日本で、100円のお金にも困る生活をしている20代の若者たちが、決して少なくない数存在しているという現実。金持ちの家に生まれたとしても、若者が生きる価値を見いだせず、幸せになれない現実。石田さんの筆は、現代日本の現実を活写しています。読後さわやかな気持ちになれる一冊ではありませんが、若者に関わる方には、ぜひともお読みいただきたいと思いました。

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