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2008年9月22日 (月)

容疑者Xの献身

「容疑者Xの献身」東野圭吾著(文春文庫)

いやあ、久しぶりにうなりました。ミステリーは、これまでずいぶん読んできましたが、私の中で、本書はベスト1と言っても過言ではありません。読み始めからぐいぐい引き込まれ、寝るのも忘れて一気に読んでしまいました。

この作品が、直木賞受賞作だと言うことは知っていましたが、「そりゃ、賞くらい取るよなあ」と思いました。

高校の数学教師石神哲哉は、数学以外に興味のない男だったが、アパートの隣人、花岡靖子に興味を持つ。ある日、靖子を元夫、富樫慎二が訪ねてくる。暴力を振るう富樫とのもみあいから、靖子は娘とともに、彼を殺してしまう。呆然とする母子に、石神は「完璧なアリバイ」を授ける。
富樫の死体が発見され、警察は過去の関係から靖子を疑うが、いずれの手がかりもあと1歩で「正解」に届かない。行き詰まった草薙刑事は、友人の天才物理学者、湯川に相談を持ちかける。意外にも、石神と湯川は大学時代お互いを尊敬しあう仲だった。
天才数学者が出題した「アリバイ」を解く天才物理学者。高度な論理に基づく攻防の末、湯川により、事件の全貌が明かされる。その解答とは?

ご覧の通り、この物語の犯人はすぐに判明し、その犯人を石神が守る、というところから物語が展開します。とはいえ罪から不正に逃れようと、アリバイ工作をするのではありません。富樫は平穏な靖子の生活を脅かそうとしていた悪人だし、靖子の殺人も偶発的なものだったからです。
それゆえ、読者は、死体が発見され捜査が進展する中でも「警察にばれなければいいが」という、犯人寄りの気持ちにさせられてしまいます。このあたりが、東野さんの上手なところです。

しかし、途中まで完璧に見えた、石神と靖子の連携が揺らぎ始める事件が起こります。靖子が、以前勤めていたクラブの常連客だった、工藤の登場です。工藤は、印刷工場を経営する社長で、奥さんを病気で亡くしています。靖子の娘は、工藤を受け入れないけれども、靖子は工藤を憎からず思っている──こうなると、殺人の秘密を共有している石神の存在は、靖子にとって微妙なものになります。

「あ~、だいたいこういうところから、犯罪は露見しちゃうんだよな~」と思って読み進めると、それを裏付けるようなエピソードが続き、読者はすっかりその気になってしまいます。しかし、最後に、それがとんでもない間違いであることに気づかされます。あまり詳しく書くと、物語の魅力をそいでしまいますのでこれくらいにしますが、いずれにしても良くできた構成です。

手品や、アメリカンフットボールで、相手の目を欺く仕掛けのことを「ミスディレクション」といいます。東野さんは、本書で、劇中人物と読者をそれぞれミスディレクションさせるのでIkariす。そして、上質なミステリーのほとんどがそうであるように、最後は、人間が生きる意 味を鮮やかに描き出します。もうそれは見事としか言いようがありません。

まもなく映画も公開されるようですが、ミステリー好きな人なら、読まないと一生の損、それくらい言えてしまう一冊です。

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