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2008年9月 1日 (月)

ネットいじめ

「ネットいじめ ウェブ社会と終わりなき「キャラ」戦争」荻上チキ著(PHP新書)

「青少年をネットの有害情報から守れ」という声に押される形で、いわゆる青少年ネット規制法が、今年6月に成立しました。この法律に関しては、成立前に、実効性を疑う声や、「表現の自由を侵害する可能性がある」といった批判がありましたが、ネットの危険性を訴える声の前にかき消されてしまいました。

これに対して、本書の著者荻上チキさんは「そうした規制はネットいじめの解消に何ら役立たない」と主張しています。役立たないどころか、問題の本質を見えにくくしている、と言うのです。

実際、この法律が成立した前提として、教育評論家やマスコミによって作り上げられた「子どもたちが、学校裏サイトやネットいじめで大変なことになっている」という論調があります。私自身、身近で中学生の作った裏サイトを目にしていただけに、こうした論調に、少なからず同意していました。ところがよく考えてみると、子どもたちのネット利用が諸問題の原因、とする証拠はないのです。しかも、現実には、ネット利用を制限することなどできないのに。

荻上さんは、この問題について「はじめに」において、4点指摘しています。

  1. 「学校裏サイト」の存在に追って顕在化された問題を「インターネット」や「若者」、「教育」といった、特定の対象だけの問題であるかのように考えてしまっていること。
  2. その分析の仕方において、「新しいメディアが登場すれば、必ず流言が出回る」という歴史を単純に繰り返してしまっていること。
  3. あたかもネットいじめが情報技術によって生み出された全く新しい問題であるかのように語ることで、いじめ研究を含めたさまざまな議論の蓄積がまったく参照されずにいること。
  4. 「学校裏サイト」などの問題が示唆している、メディアとコミュニケーションとの関係や変化をめぐる考察が正しく行われていないこと。

1の問題については、メディアにおける「学校裏サイト」の取り上げ方を検証し、「裏サイト=トラブルの温床」という描き方が実態とかけ離れていると指摘します。考えてみれば、裏サイトが機能するためには、そのクラスの人気サイトになる必要があります。しかし、悪口だけでは、人気サイトになろうはずがありません。ですから、構造的に悪口のみの裏サイトなど、仮にあったとしても、影響力なしなのです。
実際、メディアシーク社やふみコミュの調査では、裏サイトを継続的に使っている中高生は、数%であることが明らかになっていることを紹介しています。何より荻上さんが、実際にサイトを運営している中高生にインタビューしているのですが、この中身にはかなりのリアリティがありました。
さらに、2の問題については、テレビが本格的に普及し出した1950年代の天声人語を引用し、旧メディアの人たちは新メディアを否定する傾向にあることを指摘しています。天声人語が指摘するテレビの問題点は、今日でも重要ですが、だからといって、テレビがなくなっているわけではありません。ネットもそういうことだ、という荻上さんの指摘は、正鵠を得ていると思います。

そして本書の白眉は、3の問題についての指摘です。ネットいじめは確かに問題だが、ネットでだけいじめが存在するのではなく、リアルないじめが、ネットでも展開されていることが問題だというのです。この説明のために、いじめのメカニズムを研究している内藤朝雄氏の研究を引きながら、それを明らかにしています。ネット利用を禁止することは、問題を解決しないばかりか、かえって見えなくしている、というのです。
さらに4の問題については、中高生の間でよく使われる「キャラ」というキーワードで考えています。彼らのコミュニケーションを説明するのに、とても重要な考え方なのだそうです。その上で「いじ」より「いじ」が問題、という説明は、初耳でしたがショックでした。

荻上さんの指摘は、かいつまんで言うと「ネットは道具に過ぎない。問題を道具のせいにしても何も解決しない」ということだろうと思います。これは非常に重要な指摘です。荻上さんは、以前ご紹介した「12歳からのインターネット」という本も書いておられますが、若者にネットの正しい使い方を知ってもらう、というスタンスで一貫しています。このことを考え、主張するために、実際に何人もの若者たちと話し合っていること、つまり現場主義であることが、荻上さんのすばらしさだろうと私は思いました。

それにしても、荻上さんの主張が正しければ、テレビのバラエティ番組の悪影響は、計り知れないなあと感じました。ネットの規制より放送番組の規制ではないか、とそんなことを考えさせられる一冊です。

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