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2008年9月 8日 (月)

プロ野球の一流たち

「プロ野球の一流たち」二宮清純著(講談社現代新書)

新幹線のホームや空港の書店には、芸能界のゴシップ本や、プロ野球やサッカーに関する本がよく置いてあります。スポーツ新聞の延長で、軽く読めるため、人気があるのだろうと思っていました。本書を購入したときは、確かにそれくらいの気持ちでした。
ところが、二宮さんがインタビューしている一流のプロ選手やコーチの話には引き込まれました。仕事上の教訓として、一般性があり、示唆に富んでいるのです。

とりわけ感銘を受けたのは、第1章で紹介されている、中西太さんの話です。私自身、現役時代「怪童」と呼ばれた中西さんの現役時代は知りませんが、打撃コーチとして育てた選手の活躍はずいぶん目にしています。これを読むと、中西さんがその風貌とは裏腹に、緻密に計算されたコーチングを行っていたことが分かります。

僕はチームで一番、下手クソな選手と仲良くします。進んでいる子はギャアギャア言わんでも、ひとりでやりますよ。ところが下手クソな子が上達すると、他の選手たちも私の意見に耳を傾けるようになる。だから下手クソとは仲良くせんといかんのです(笑)。

野球が上手だからプロに入れるわけで、「下手クソ」とは、かなり比喩的な意味なのだろうと思います。それでも、人心掌握術として示唆に富む話だと思いました。私たちは、よく人を育てると称して、実際にはこれと真反対なことをやってしまいがちです。
それから、中西さんなりの指導の極意についても言及しています。

本当はバッティングなんて余計なこと言わなくていい。正しい打ち方ができるようになるまで一緒にやろうぜ。選手と野球バカになったっていい。指導とはこういうもんです。僕の理論っていうのは、つまり実践論なんです。(中略)できない子にとっては、「こういう選手がこんな練習をしていた」という具体的な例を出してあげるほうが取り組みやすい。そういった引き出しをいっぱい持っているというのが僕の強みかもしれないね。

ここから読み取れる、中西流指導の極意とは「寄り添うこと」ではないでしょうか。どうしても指導というと、上から目線になりがちです。現役時代スーパースターだった中西さんが、こうした寄り添う視点をもてたのは、「三原マジック」で有名な三原脩監督の教えが大きいようです。実際、インタビュー中でも何度も名前が登場します。

第2章では、「名選手たちの技術と陥穽」と題して、データを分析したり選手にインタビューしたりしながら、その技術や課題を明らかにしています。どの記事も興味深く読めましたが、とりわけ、阪神の金本選手と新井選手の比較分析と、横浜の工藤投手の「バッテリー論」は圧巻でした。

まず、金本選手と新井選手の比較ですが、レギュラーに定着したプロ入り4年目と、2007年の打撃成績をそれぞれ比較すると、両方とも新井選手が若干上回っています。それなのに、ファンも首脳陣も金本選手の方を高く評価するのはなぜか。実は打撃成績ではない数字にはっきりと表れている、という分析です。これは評価の軸をどこに置くか、という教育課題にも直結する分析であり、重要な指摘だと思いました。
次に工藤投手。投手の投球法が「軸回転」「タテ回転」に二分できることを示し、それに合った変化球を身につけるべき、と言います。また、捕手育成に関する経験談と考え方は、教育論としても読めました。捕手を育てるためにわざと打たれた話は印象的でした。インタビューを読んで感じるのは、工藤さんの視点がまるきりコーチのそれと同じということです。それだけ深く考えて仕事をしているからこそ、こんなにも長く現役を続けていられる(現在45歳)のでしょう。野球の話としてだけではなく、仕事への取り組み姿勢として深く考えさせられました。

ただ、本書には決定的な欠点があります。それは、内容に一貫性がないと言うことです。第3章の日米野球格差、第4章の日本野球に関する文章は、読み応えのある力作ではありますが、本書のタイトルにはもちろん、前半の内容ともマッチしません。この2つの章は別の本にすべきです。
二宮さんが、雑誌に寄稿した文章を寄せ集めて一冊の本にしたからこういうことになるのです。中身が良いだけに、講談社現代新書とは思えない、雑な本作りがとても残念でした。

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