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2008年11月27日 (木)

シューカツ!

「シューカツ!」石田衣良著(文藝春秋)

「就活」のシーズンがやってきました。朝の地下鉄では、着慣れぬリクルートスーツに身を包んだ大学生を数多く見かけます。本人たちは、とても大変な思いでいるのでしょうけれど、私のようなおじさんにとっては、まぶしい風景です。階段を駆け上がる後ろ姿に、思わず「がんばれよ」とつぶやいてみたりします。

本書は、そうした就職活動に身を投じた、大学3年生たちの物語です。

その昔、大学生の就職に当たっては「就職協定」というのがあり、就職活動は四年制大学であれば4年次の10月から始まるのが通例でした。けれどもバブルの頃から、協定を抜け駆けする企業が続出し、1996年に協定は廃止。その後、就職活動はどんどん前倒しになり、現在では3年次の秋からというのが通例となっています。

著者の石田さんは、「うつくしい子ども」では少年の心の闇を、「非正規レジスタンス」では非正規雇用の若者たちの現実を描いていましたので、大学生の就職活動を描いたこの作品でも、そうした社会批判的視点で就活が語られるのかと想像しました。けれどもその予想は見事に覆されます。もちろん厳しい現実は随所に描かれてはいるものの、本書は、かなり正当派の青春小説だったのです。

水越千晴は鷲田大学の3年生。仲間とともに「シューカツチーム」を結成し、「全員合格」を合い言葉に、グループディスカッションの練習をしたり、エントリーシートの書き方で合宿を行ったりしている。全員難関のマスコミ志望。千晴は、日ごろのアルバイトやテレビ局のインターンシップ、OBOG訪問を経験する中で、「働くとはどういうことか」を真剣に考えるようになる。そしていよいよ試験。最終面接での大失敗などの試練を経験し、本命の放送局と出版社の試験に挑戦する。

私自身は、大学5年生の12月から就職活動を開始する、といういい加減さでしたので、本書に登場する千晴たちの傾向と対策を練る姿が新鮮でした。こういう取り組みを否定する人もいますが、私はそうは思いません。就職試験のために彼らが読んだ新聞や、ビジネス雑誌や志望先出版社の出版物は、どのような職業に就くにせよ、必ずや役に立つでしょう。実際、空っぽの頭で出版社に就職した私は、入社してからが大変だったものです。本書の登場人物があまりにリアリティがあるので、そんなことを思い出しました。

物語は、この「シューカツチーム」の就職活動を縦軸にしながら、若者たちの悩みや不安を横軸に展開します。シューカツチーム内にいくつかの恋愛が芽生えたり、就活の不安に押しつぶされ、自宅に引きこもってしまうメンバーが出てきたりするのです。けれども彼らは、恋愛も就活に上手に生かします。また余裕などないのに、引きこもりの友人を励まします。とにかくみんな、いいヤツなのです。
OBOG訪問で千晴が出会う大学の先輩たちも魅力的に描かれています。特に国営放送の女性ディレクター西山は、千晴を励ましながらも、彼女の、すぐ「正解」を求めたがるところや、如才なく振る舞いたがるところを否定します。「マスコミの世界に来るならさあ、もっとオリジナリティを考えようよ」という言葉で。

本書は、もともと地方新聞数紙に連載された物語をまとめたものです。新聞連載のお話ですから、楽しく、続けて読めることが重要なのでしょう。私がこれまで読んだ石田さんの作品の中では最も明るく、気軽に読める作品でした。「深みがない」と批判する人もいるかと思いますが、少なくとも私は、読後非常にさわやかな気持ちになることができました。これは、この作品の登場人物が、一様にリアリティのあるいい人だからでしょう。タイトルが「就活」でも「就職活動」でもなく「シューカツ!」となっているのは、まさに作品内容にぴったりで、元気の良さを表しているなと思います。

実際に就職活動されている方はもちろん、「本を読んで元気になりたい」と思われる方に、ぜひおすすめします。

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