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2008年11月24日 (月)

僕の妻はエイリアン

「僕の妻はエイリアン 『高機能自閉症』との不思議な結婚生活」泉流星著(新潮文庫)

「自閉症」ということばを最初に聞いたのは、学生時代だったでしょうか。その当時は、うつ病や引きこもり状態、というような意味で使われていたような気がします。現在では、それは間違いで、先天的な器質障害とする考えが主流のようです。けれども百科事典などの説明を読んでも、具体的にはよくわかりませんでした。

本書は、サブタイトルにある通り、高機能自閉症の奥さんとその夫のお話です。これを読んで、この障害に関する理解がずいぶんと進みました。

帯に「ノンフィクション」と書かれている通り、本書はおそらく実話集なのでしょう。自閉症の妻(本書では「エイリアン」)と、一般人(本書では「地球人」)の夫の葛藤が、非常に具体的に書かれています。このように書くと、病気の妻を介護する夫、というイメージを持たれるかも知れません。しかし自閉症は病気ではなく脳の器質障害です。何かの原因で、自閉症を発症するわけでも、治療できるわけでもないのです。このことを心底理解しないと、見た目はまったく変わらないだけに、非常につらい思いをすることになるのです。

では一般の人と、なにが、どう違うのでしょう。本書の冒頭には、自閉症に関する説明が、図とともに書かれていて、分かりやすい感じです。その説明部分の一部を抜き出してみます。

「自閉症の傾向のある人って…?」
×:「自閉」は内向的だとか引きこもり好き、人間ぎらいといった意味ではない。個性は様々。わざとわがまま勝手なふるまいで人目を引きたがるといった「性格の悪さ」とも無関係。
○:実際は脳のつくりや働きがもとから違っているため、感じ方や考え方に独特の特徴がある人のこと。「まるで別の星から来たような」違和感がある(本人も周囲の人も)場合があり、地球人社会にうまく適応するのが難しい。
☆:共通する特徴は、おもに3つ

  • 社会に溶け込み、周囲の人々に適応するのが難しい。
  • ことばが使えても、人とのコミュニケーションが不得意
  • 特定の物事だけに強い興味を持つ、決まった習慣や行動を繰り返すといった、こだわりが強い

これを読んで、ばっちり分かりましたでしょうか。私にはどうにもぴんと来ませんでした。「こんなにわかっているなら、これ前提でつきあえばよいではないか」と考えてしまったのです。しかしそれは大きな間違いでした。上に赤字で書いた通り「コミュニケーションが不得意」なので、無思慮に見える言動や行動、表情をしてしまうという特徴があります。人間の心は鋼ではありませんから、そうされてしまうと「しつこい」「わがまま」と感じ、怒ってしまうのです。特に本書の「妻」は、自閉傾向に加え、言語的には非常に高い能力を有して(「高機能自閉症」というのだそうです)います。言語能力や記憶力などが非常に優れた人が、配慮無く見える言葉を発するわけですから、一般人にとっては「バカにしている」と思えてしまうのです。

これを乗り越えるには、もう理屈ではなく、積み重ねしかないのだろうと思います。本書を読み進めると、似たような事例が何度も描かれているので、最初は「著者も編集者も未熟だなあ」と思っていたのですが、そうではないのです。繰り返しや積み重ねが大切なのです。
自閉症の特徴として「以前○○だったから今回も」と敷衍して考えることができない、というのがあります。だから何度も根気よくつきあわねばなりません。これと同様、何度も似たような事例に触れることが自閉症理解の第一歩なのです。今回このことがよくわかりました。

実は本書は、日ごろ大変お世話になっている校長先生にいただきました。自閉症の子どもたちが通常学級に入ってくる中で、彼らは、暴力をふるっても、罵声を浴びせても、予定が変更になったからと固まっても、その後けろっとしているのだそうです。「そういうものだ」と本には書いてありますが、先生方の気持ちはそうはいきません。そんなときに本書と出会い、多少救われたと言います。解決にはならないが、少なくとも一定の理解をすることができたと。

本当は、ネタバレになるので、書くべきことではないのですが、本書の著者は、実は妻、つまり、自閉症の方が自閉症について書いた本なのです。自閉症を広く、より適切に理解してもらうために、一般人の視点、という形を取っているのでしょう。私は、まんまとだまされてしまいました。しかしそれだけに、一般人からの見え方も、自閉症の方の感じ方も良く理解できるのだと思います。校長先生は、「日本には、自閉症の人が自閉症について書いた本が非常に少ないのでこの本は貴重」とおっしゃっていました。

自閉症理解の入門書として、ぜひお薦めしたい一冊です。

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