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2008年11月13日 (木)

野村ノート

「野村ノート」野村克也著(小学館)

著者の野村さんは、言わずと知れた東北楽天ゴールデンイーグルスの監督です。当初本書を見かけたときは、タレント本のようで、あまり読みたいとは思いませんでした。しかも、テレビで見る野村監督は、愚痴ばかりでなんだか怖そうでもあります。

ところがあるとき、野村監督のインタビューを聞くことがあり、人材育成に関する発言に、かなり共感できる部分がありました。しかも本書は、2005年に発行されてから、すでに14刷(私が購入したのは9刷)となっています。きっと良い本なのだろうと思い、本書を読んでみることにしました。

野村さんは、南海ホークス時代に監督兼選手を8年経験し、1973年には優勝もしています。若い頃からこれほど長く監督を務めたのですから、指導者としての意識は、ずいぶん前から持っておられたのだと思っていました。けれども、本書によれば、指導者としての視点を持ったのは、ヤクルトの監督に就任する1990年まで行っていた野球解説者の仕事がきっかけだったといいます。
そしてヤクルトで実践し、成果を上げた「プロ野球監督のあり方・原則」をまとめたのが本書です。内容は100%野球の話ではありますが、見出しは組織論、リーダー論そのものです。

  • 1章 意識改革で組織は変わる
  • 2章 管理、指導は経験がベースとなる
  • 3章 指揮官の最初の仕事は戦力分析にある
  • 4章 才能は学から生まれる
  • 5章 中心なき組織は機能しない
  • 6章 組織はリーダーの力量以上には伸びない
  • 7章 指揮官の重要な仕事は人づくりである
  • 8章 人間学のない者に指導者の資格なし

各章それぞれ印象的な話が満載です。1章では選手にルールを学ばせたり、トリックプレーを学ばせたりする中で、選手に自信を付けさせたということが語られています。2章では、経験を意識化せよ、ということが語られています。常に考えて野球をしていないと、引退後、優れた指導者にはなれないというのです。また、野村さん自身が考え抜いて会得した、打者の類型、打者攻略のパターン、内角球の使い方、などが非常に具体的に語られています。
3章、7章、8章あたりでは、リーダーの人間的資質の話題が展開されています。名選手、大投手と言われた人が、監督としては全く成績が上げられなかった理由や、天才打者と言われる選手がなぜ継続して好成績を残せるのか、ということについて、人名を挙げて説明しています。また、極端に自我が強く、扱いにくい選手とコミュニケーションをとり、チームの一員にしていった過程などは、非常に興味深く読むことができました。

これらは、野球をやらない人には無関係のことと思われるかも知れませんが、そんな狭い話ではありません。野村さんが言っているのは、相手のことも自分のこともきちんと分析・理解していなければ、良い仕事はできない、ということなのです。これはあらゆる仕事に通じることでしょう。

野村さんは、選手としても監督としても、輝かしい成績を残しており、本書の巻末にもそれが詳細に掲載されています。にもかかわらず、本書では、それらについては一切語られていません。むしろ、失敗談の方が多いくらいで、野村さん自身が野球のルールを知らず恥をかいたこと、日本シリーズで采配ミスをして負けたことなどがさらりと書かれています。失敗からの方がより深く考えられる、ということなのでしょう。その潔さといいますか、自己認識の厳しさにうなりました。

実際、自分の失敗をきちんと認識するのはなかなか難しいことです。少しの成功にとらわれ、己の能力を過信し、失敗を失敗と認識しない企業経営者やリーダーは少なくありません。そして何度も同じ失敗を繰り返します。これは自分を自分の物差しでしか評価していないことが原因です。このあたり、野村さんはこのように書いています。(語順等を若干変更しました)

職人気質が多いプロ野球選手は、自分ひとりでうまくなった、自分で勝てたとすぐ錯覚するが、人は全然そう思ってくれていないことが往々にしてある。評価は、人が下した評価こそが正しいのだ。自分が思うほどに人は思っていないということを、どうやって選手に分からせるか。これが監督の仕事である。

リーダーのあり方を考えさせられた一冊でした。

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