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2009年1月26日 (月)

経営はロマンだ!

「経営はロマンだ!」小倉昌男著(日経ビジネス人文庫)

一人のビジネスマンとして、ヤマト運輸の社長をされていた小倉さんのことは、かねがね尊敬申し上げておりました。新聞や雑誌から、小倉さんについて次のようなことを知ったからです。

  • 「小口は儲からない」という業界の常識を破って宅急便を始め成功したこと
  • 宅急便を全国に広めるに当たって中央官庁の不作為と闘ったこと
  • ヤマト運輸が軌道に乗ると、さっと身を引き福祉の世界に身を投じたこと

本書では、これらの経緯やそのときの思考や判断について、詳しく語られています。ビジネネスマンとしてはもちろん、生き方について考えさせられました。

本書は、日本経済新聞の人気コラム「私の履歴書」をまとめ、加筆・修正したものです。この800字ほどのコラムが、本書には全部で70ほど収められ、小倉さんの人生の節目ごとに、時系列で整理されています。それゆえ、気軽に読み始められ、また中断もしやすい本です。通勤の途中など、ちょっとした時間に読むのには最適な本でしょう。
もっとも、私は一気に読んでしまいました。それほど面白い本だったのです。

本書は大きく3つの内容で構成されています。

  • 生い立ちから学生時代、大和運輸入社直後の入院と結婚
  • 大和運輸の苦境と宅急便の成功
  • ヤマト運輸経営からの引退とヤマト福祉財団の設立

成功した経営者の自伝は少なくありませんが、たいていはその方の成功した話が中心です。本書ももちろん宅急便の成功が語られていますが、それと同じくらい、小倉さんがヤマト運輸の経営から身を引いた後設立したヤマト福祉財団の「これから」が語られています。小倉さんは、本書を上梓するに当たり、おそらくこちらの取り組みを中心に書きたかったのではないでしょうか。それが証拠に、本書の顔とも言うべき「はじめに」では、ほぼすべて福祉財団での取り組みを書いています。

ヤマト福祉財団が主催する「経営セミナー」初日(中略)、私はこう語りかけた。「皆さん、ふだん障害者のために一生懸命働いておられ、ご苦労様です。皆さんは立派な事業をしていると思っていることでしょう。しかし、私はそうは思いません」(中略)「なぜか言いましょう。あなた方は、働く障害者にいくら給料を払っていますか。月に一万円程度ではないですか。だから悪いことだというのです」(中略)障害者を保護するのではなく、自立を支援するのが本当の親心だと思う。考え方を変えてもらうために、セミナーではまず憎まれ役になるのです。(中略)
長年、障害者福祉の仕事をしてきた人には自信家が多い。(中略)だからこそ、最初にショック療法を施す必要があると考え、こんな話をするのである。

小倉さんは、財団を設立しただけでなく、スワンベーカリーという焼きたてパンの事業を立ち上げ、従業員に、十万円以上の月給を支払っています。まさに障害者自立の枠組みを作ったのです。とはいえ、これも簡単にできたわけではありません。この構想を立てたとき、福祉関係者からは「夢のような話」「世界が違う」と、反対されたそうです。小倉さんが、宅急便を構想したとき、全役員から反対されたときのように。

今も心の中に宅急便の裏付けがある。福祉の分野でも「障害者は低賃金でもやむを得ない」という固定観念を打破したい。それが経営者としての意地であり、ロマンだと思っている。

「経営はロマンだ」というタイトルは、こうしたチャレンジ精神のことを表した言葉なのでしょう。本書を読むと、こうした考えが、バンカラだった学生時代や就職直後に患った結核の経験などによってもたらされたのだということがよく分かります。一線を引いた経営者が、新境地でのこれからについて語るというのは、できそうでできないことです。そもそも経営者の立場にしがみついて「老害」などと揶揄される人が少なくない中で、本当に素晴らしいふるまいだと思いました。

小倉さんの文章は、一文がとても短く簡潔です。時にはそっけないほどに。それでも読者を引きつけて放さないのは、まず語られるエピソードがバラエティに富んでいるからでしょう。ご自身の生い立ちや経営のことの他に、創業者である父との関係、それを支えた母や継母の話、恋愛の話、大病を患ってから入信したキリスト教の話など。しかもこれだけ多岐にわたる話題が、一本の糸のように、つながって語られています。すばらしい筆の力だと思いました。

2005年、小倉さんは、惜しまれつつこの世を去ります。今もお元気であれば、どのようなご活躍をされたのかと思わずにはいられません。不況、解雇、倒産と、経済界には暗い話題の多い昨今ですが、本書を読んで元気が湧いてきました。

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クロネコヤマトの宅急便で荷物が届いた。勤務先でも他社に送付する重要な書類は、実は宅急便を使っている。いつの頃か、郵便よりも速くて確実なのが宅急便というイメージがしみついている。これはいわば、”民”が”官”をこえているサービスの所以だろう。その宅急便事業の産みの親にして、私が尊敬する経営者の小倉昌男氏が亡くなってもうすぐ5年になろうとしている。小倉昌男、クロネコの親の生き方の経営理念、「官僚と闘う男」なる異名までとった硬骨の信念、そしてこれまでの人生を知ったのは、平成14年1月1日から日本経済新聞で連... [続きを読む]

受信: 2010年6月 1日 (火) 22時25分

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