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2009年1月12日 (月)

地図男

「地図男」真藤順丈:著(メディアファクトリー)

編集者になりたての頃、文学賞を取った小説を手当たり次第に購入して読んでいました。大学時代に全く本を読んでいなかった、というコンプレックスもありましたが、「よい文章、すぐれた表現とは?」ということが知りたかったのです。とはいえ「じゃあ今は分かったのか?」と問われれば、甚だ心許ない限りですがweep。だからかもしれませんが、今でも主要な文学賞の受賞作品はチェックしています。

本書を購入したのはそんな理由です。比較的新しい文学賞の新人賞を3つも受賞した、ということで興味をもちました。

小説には、冒頭からぐいぐい引き込まれるものもあれば、冒頭は違和感があり没入しにくいものがあるように感じます。本書は、完全に後者です。しかも、物語の世界に入るのに、通常より多くのページを費やしたような気がします。とはいえ読み終わった今では、なるほどなあ、と感心しきりです。本書は、ミステリーのような体裁を取りながらも、「男が女性について語ること」について描いた作品と言えるでしょう。ちょっとわかりにくいでしょうか。

読み終わた後、表4を目にすると本書のあらすじが書かれていることに気づきました。読む前にあらすじを目にするのはたいてい興ざめなのですが、本書は例外です。これを最初に読んでおけば、もっとたやすく物語の中に入れたのになあ、と後悔しました。これからお読みになる方の参考になると思いますので引用します。

仕事中の<俺>は、ある日、大判の関東地域地図帖を小脇に抱えた奇妙な漂浪者に遭遇する。地図帖にはびっしりと、男の紡ぎ出した土地ごとの物語が書き込まれていた。
千葉県北部を旅する天才幼児の物語。
東京二十三区の区章をめぐる蠢動と闘い、
奥多摩で悲しい運命に翻弄される少年少女──
物語に没入した<俺>は、次第にそこに秘められた謎の真相に迫っていく。

Chizu つまり本書は、「俺」と地図男の物語の中に、3つの物語が展開されるという入れ子構造になっているのです。ちょっと左のような図にしてみました。入れ子構造の物語は、さして珍しくありませんが、それを読者に上手に気づかせる、というのが作家の腕の見せ所です。たとえば、浅田さんの「地下鉄(メトロ)に乗って」や、石田さんの「うつくしい子ども」あたりは見事でした。それと比較すると、本書の構造は、私にはちょっとわかりにくかったです。「エピソード0」みたいな感じで、前書きのようなものがあれば、私のような読者も、すっと入れたのではないかと思いました。

それから本書のブックデザインは美しいです。地図でできた立体オブジェと巨大な明朝体のおかげで「いったいどんな話だ?」と強く興味をかき立てられます。表4にも真正面を向いた、表紙のものとは別のオブジェが配置されていて隙がありません。スタッフの本書に賭ける意気込みが伝わってくるようです。
ただ本文の紙が、真っ白なのが残念でした。真っ白な紙は一見読みやすいように感じますが、私のような老眼には応えます。もっともそういう意味で、若者向けの書籍なのかも知れませんが。

なんだか賛辞と同じくらい批判を書いてしまいましたが、私は本書を読んでとても満足しています。構造が複雑なおかげで、もう一度読み直そうという気持ちになりましたし、見方を変えれば、1冊で4つの物語が読めるというお得な本といえるからです。特に奥多摩の少年少女の物語は読ませます。ビックコミック・スペリオール連載の「キーチ!」を彷彿とさせる物語でした。

新進作家の力強い物語に元気をもらいました。

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