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2009年1月 1日 (木)

正義で地球は救えない

「正義で地球は救えない」池田清彦+養老孟司著(新潮社)

あけましておめでとうございます。
新年最初にご紹介する本は、どれにしようかと、12月からずっと考えてきました。読みかけで、ずっと途中になっているノンフィクションか、それとも最近読んだSFか、はたまた以前に読んで大変感動した小説か…。

迷ったあげく、環境問題の問題を話題にした本書にしました。昨2008年の年初、マスコミ等で盛んに「環境元年」という言い方がなされていたからです。

環境元年から、まる1年、果たして地球環境は良くなったのでしょうか? 地球温暖化はどうなったのでしょうか。本書の著者の1人、生物学者の池田さんは、そうした政府の進める環境行政を「脱炭素利権に群がる誰かの策略」と批判(もちろん本書では「誰か」について具体的に言及)します。

あるタイプの前立腺がんは手術も何もしないで様子を見るのが最善だそうだが、これでは医者は儲からない。儲けたい医者は手術を勧めるだろう。京都議定書を守って、CO2の削減に莫大な税金を注ぎ込んでも、温暖化を止めるための貢献度はほぼゼロに等しい。しかし、税金は誰かの懐に入るわけだから、特定の人だけは儲かる。

このような環境行政に対する疑義は、すでに多くの書籍で提示されていますが、本書の主張は、かなり説得力がありました。本書は前半部分で池田さんは、地球温暖化論議の奇妙さと、人類が立ち向かわねばならない本当の脅威について、論理的に説明しています。
以下は冒頭の「地球温暖化脅威論こそ脅威」という章の要旨です。

  • 本当にCO2を減らしたいなら、その根源である原油に課税すればよい。そうしないのは、脅威でない証拠
  • GDP比で最もCO2排出量の少ない日本が、これ以上努力しても地球全体に対する貢献度は非常に低い
  • 地球は複雑系で成り立っており、温暖化の原因をCO2だけに限定するのは非科学的

このほか、生物学者の立場から、多くの生物は気候変動に伴って居所を変えているという事実を複数提示「たとえ温暖化しても生物にとっては問題ない」とし、さらに「温暖化現象とヒートアイランド現象を混同しているのではないか」と疑問を呈しています。「不都合な真実」を読んで、すっかりその気になっていた私にとって、この主張は衝撃でした。私の知識が不十分なので、もしかすると池田さんに煙に巻かれたかもしれませんが、非常に説得力がありました。

さらに「生物多様性の保全」という「正義」も鋭く批判します。ブラックバスやグリーンアノールなどの外来種が、在来種を滅ぼした事実はこれまで絶無であり、駆除のために大量の税金を投入するのは非常に愚かだと言うのです。そもそも「生物多様性」という言葉は、アメリカの学者が20年ちょっと前から言い出したことで、人類にとって良いことなのかはっきりしない、と言われてしまうと、私たちは、とても混乱してしまいます。一体何を信じればよいのかと。

ところがこの、何かを信じ「○○こそ真実」と考えること自体が問題なのだ、と、本書の後半で、池田さんと養老さんが対談で明らかにしてゆきます。つまり「環境原理主義」とでも言うべき、単純な考え方が問題なのだと。「健康のためには死んでも良い」なんてギャグがありましたが、今の環境活動は、まさにそれに近いような気がします。最近の新聞やテレビでは、善か悪か、白か黒か、といった単純な二元論が幅を利かせているように思えてなりません。池田さんと養老さんが本書でもっとも言いたかったことは、おそらくこうした単純な考え方を止めてみよう、ということでしょう。再度池田さんの文章を引用します。

環境を守れ、というコトバは誰も反対できない正義の響きをもつ。だからといって、CO2の削減や外来種駆除が絶対的な善だ、というわけにはいかないのだ。ここに単純化の罠と、目的と手段の転倒がある。(中略)CO2の削減や外来種駆除を正義と信じる大半の人は、(中略)限りなき善意の人であろうことは疑い得ないが、地獄への道は正義と善意によって敷き詰められていることも、またほとんど自明であるように私には思われる。

本書で述べられている「本当の脅威」については、敢えてここでは触れません。しかしそれも含めて、本当の問題は、私たちが「白か黒か、善か悪か」というように、ものごとを矮小化・単純化して考えるようになってきている、ということです。新年に当たり、考え方を考えさせられた一冊でした。

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