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2009年2月19日 (木)

子どもの貧困

「子どもの貧困 日本の不公平を考える」阿部彩著(岩波新書)

ひさびさに、読むのに時間のかかった本でした。近頃の新書には珍しく、42字×15行と文字数が多いということもありましたが、何より内容が重かったのです。本書のタイトルは「子どもの」貧困となっていますが、本書が話題にしているのは、実は現代日本の貧困問題です。

私自身、貧困の問題は、どこか自分には関係のないことと考えてきましたが、本書を読んだ今、これは非常に大きな問題だと実感しました。

本書では「はじめに」に、問題のポイントが凝縮されています。その中身をかいつまんでご紹介しましょう。

長い間、日本の子どもが直面している経済状況を社会問題とすることはタブーとされてきた。根底にあったのは、日本が「総中流」社会であるという考え方である。しかし、90年代に入ってからは、日本が「格差社会」であることが、多くの人に意識されるようになり、2006年7月にOECDの「対日経済審査報告書」が大きな衝撃を持って受け止められた。日本の相対的貧困率がアメリカに次いで第二位と報告されたのである。さらに子どもの貧困率についても警鐘が鳴らされた。

  • 子どもの貧困率が年々上昇し2000年には14%に達したこと
  • この数値がOECD諸国の平均より高いこと
  • 母子世帯、特に母親が働いている世帯の貧困率が高いこと

貧困率14%という数字に、私は非常に驚きました。ここでいう貧困とは、専門家の定義によれば「許容できない生活水準」とのこと。本当にこれほど広がっているのでしょうか。この数字だけでも驚きなのに、これを何人かの小学校の先生に伝えたときの反応に、さらに驚愕しました。みなさん一様に「そうかもしれない」とおっしゃったのです。きっと思い当たる事実があるのだと思います。

とはいえ「資本主義なのだから格差は仕方がない」と考えられる方も少なくないでしょう。しかし「貧困は連鎖する。だから社会的援助が必要なのだ」と阿部さんは言います。貧困問題を語るとき、どうしても自己責任論がつきまといますが、阿部さんは客観的な調査結果を基に、反論を展開します。たとえばアメリカでは、似たような経済状況・家族構成の貧困世帯のうち、無作為抽出した半数の世帯に金銭援助を実施したところ、多くの世帯において、貧困の連鎖からの脱出傾向が見られたのだそうです。

日本で実施したら非難囂々の研究のように思いますが、欧米には「貧困研究」という研究分野があり、社会的に認められています。それだけ貧困脱出に関して真剣だということです。この研究のおかげで、貧困脱出のための援助の金額、期間、提供方法など、さまざまなノウハウが得られます。翻って我が国の社会保障制度は、どうでしょうか。母子世帯への経済援助の減額や、期間短縮など、実態に反した施策が行われるなど、非科学的認識に基づいて立案されている、と阿部さんは批判します。

そして、問題なのは政府や行政ばかりではなく、日本国民の意識である、と第6章の「子どもにとっての必需品を考える」において指摘しています。「12歳の子どもが普通の生活をするために、○○は必要だと思いますか」という質問に対して、8割以上の人が支持する物品数が、他国と比べて圧倒的に低いのだそうです。阿部さんは、この結果について、「いまだ一億総中流の幻想が残っているから」と分析しています。つまり、「○○も手にできない子どもは、今の日本にはほとんどいないだろう」という私たちの思い込みだというのです。この思い込みが、政府や自治体の怠慢を助長し、現実の貧困を見えなくしている、と阿部さんは言います。

巷間言われる「学力低下」について、学術的に調査した本がいくつかありますが、そのいずれもが家庭の経済状況について言及しています。貧困家庭ほど、子どもの学力が低い、というわけです。しかし、本書を読んで、そうした問題意識は、表層的なものだと思いました。実際には内臓が悪いのに、口にできたおできに膏薬を塗るようなものです。
貧困は、学力どころか身体的健康も精神的健康もむしばみ、ひいては社会全体の安全保障に関わる大問題だったのです。よく「子どもに罪はない」といいますが、まさにその通り。これは社会の問題として取り組まねばならないなと実感しました。

今年は衆議院選挙のある年。子どもの貧困問題に取り組んでくれる候補者や政党を支持したいと思います。

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