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2009年3月 2日 (月)

働く理由

「働く理由 99の名言に学ぶシゴト論」戸田智弘著(ディスカヴァー21)

この直球のタイトルに惹かれて本書を購入しました。近頃はこうした労働の意味を問うような書籍が数多く出版されています。もし、タイムマシンがあって、昭和30年代の社会人に「人はなぜ働くのでしょうか」などと質問したらどうでしょう。おそらくほとんどの人が「生きるために決まってるだろ」と答えると思います。

現代は間違いなく、その頃よりも豊かで便利で生存しやすい世の中ですが、働くのに理由が必要になってしまいました。若い人はもちろん、中年の我々でさえも。これはいったいどういうことなのでしょうか。

著者の戸田さんは私と同年代。一流大学を出て、一流企業に技術者として就職するのですが、3年で辞めてしまったのだそうです。今でこそ、こうした若者は珍しくありませんが、この世代では、相当珍しかったはず。最初に就職した会社に11年勤めた私ですら、転職は家族の猛反対に遭いました。そうした社会的抑制を乗り越えても、会社を辞める選択をしたのですから、当時の戸田さんの違和感は、相当大きなものだったのでしょう。このときの気持ちを、戸田さんは次のように書いています。

会社を辞めて、何をするという当てもなかった。(中略)技術者には向いていないと思った。理科系を選んだことも間違いだったのではないかと、そのときに思った。(中略)自分に向いている仕事、自分がやりがいを感じる仕事、自分にとって面白い仕事、寝食を忘れて取り組める仕事が何なのかがまったく分からなかった。(中略)誰も教えてくれなかった。いろんな本を必死で読んだ。しかし自分が求めているような答えやヒントが書いてあるような本はなかった。

実際退職しないまでも、こんな気分になった方は、決して少なくないと思います。忙しそうな同僚の脇で、自分一人取り残されたような気分を味わったり、仕事の最中に「いったい自分は何をやっているのだろう」といった虚無感に襲われたり、といった経験は、誰にでもあるでしょう。

本書は、こうした経験を持つ戸田さんが、「ライター&キャリアカウンセラー」という職業にたどり着くまでに出会った99の名言を集めた本です。名言の出典は、その方の著書であったり、歴史上の人物の言葉であったり、メディアでのインタビューであったりしますが、確かにどれも含蓄のある言葉ばかり。
とはいえ、上記の引用文の中で「ヒントが書いてあるような本はなかった。」と書いている戸田さんが、名言集を出すのは矛盾しているように感じます。しかしそれは違うのです。同じ文章を読んでも、人によって受け取り方は違います。同じ人でも受け取る時期によってまた違うでしょう。要するに、自分がその言葉を受け取れるタイミングがあるのです。戸田さんの場合は、次の文章に出会ったときがそのタイミングだったと言います。

仕事とは自分の能力や興味、価値観を表現するものである。そうでなければ、仕事は退屈で無意味なものになってしまう。(ドナルド・E・スーパー)

本書では多くの名言とともに、戸田さんが自分の考えや経験を、ご自身の間違いも、弱さも明らかにしながら語ります。自分にしかできない仕事を目指し、もがいていた学生時代、鬱々とした気持ちを抑えて働いていた出版社時代のこととともに紹介される名言は、確かに心に染みます。本書が2007年の刊行以来12回も増刷され、13万部を突破したというのも分かる気がします。

最後に、本書の第13章「人生の標準モデルが消えた」において引用されているケインズの言葉をご紹介します。このような言葉が、すでに1930年に語られていたと言うことに驚愕しますが、同時に現在起こっている大変化も過去の賢人にとっては「想定の範囲内」ということですから、「恐るるに足らず」という思いもいたします。いずれにせよ、いろんなことを考えさせられた言葉でした。

生きるために働く必要がなくなったとき、人は人生の目的を真剣に考えなければならなくなる。(ケインズ)

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