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2009年3月 5日 (木)

君主論

まんがで読破 君主論」マキアヴェッリ作/バラエティ・アートワークス画(イースト・プレス)

近頃は、「あらすじで読む名作全集」とか「まんがで読む古典」など、難しい中身に、漫画で簡単にアクセスできる、という企画の本が数多く出版されています。おそらくそのルーツは、1986年に出版された、石ノ森章太郎さんによる「マンガ日本経済入門」でしょう。その後も続々と類書が発売されました。

本書の企画もその流れと思われます。「まんがで読破」というシリーズで、国内外の文学や評論をずいぶん漫画化しているようです。

この中で私が本書を購入したのは、これまであまりお目にかかれないカテゴリの本だったからです。「君主論」という書物があることは知っていましたが、もちろん読んだことなど無く、さして興味もありませんでした。しかも著者のマキアヴェッリ(本書ではこの表記を採用していますので、以後この表記を使います)は、私の知識では、冷酷無比の人というイメージであり、「マキアヴェリズム」という考え方は、目的のためには手段を選ばす、という意味だと理解していましたので。

ところが本書を読んで、君主論の世界は、それほど単純ではないのだということが分かりました。本書は、マキアヴェッリの人生(君主論を書くに至る過程)と、君主論の中身の解説の二つで構成されているのですが、大半が人生の解説に費やされています。およそのあらすじを次のようにまとめてみました。

マキアヴェッリが活躍したのは、16世紀のイタリア。5つの強国といくつかの小国とで成り立っていたこの時代、マキアヴェッリは、強国の一つフィレンツェの書記官だった。常に争乱状態にあったこの時代、官僚という身分で東奔西走する中、自国も含め様々なリーダーに出会う。彼らとの交渉の中で、マキアヴェッリは能力を発揮するが、最も心動かされた君主が、冷酷非道と恐れられたチェーザレ・ボルチア。結局はあっけない最期を遂げてしまう彼に、マキアヴェッリは、君主の資質や組織のあり方について多くを学ぶ。しかし彼もまた、国同士の争いの中、えん罪で捕らえられるなどして失脚してしまう。失意の中、再び任官されることを目指して、国を安定させるための方法をまとめた「君主論」を著す。

マキアヴェッリに冷酷なイメージがつきまとうのは、当時評判の悪かったチェーザレを君主論の中で「理想のリーダー」と称えたことにあるようです。マキアヴェッリ自身は、極めて職務にまじめな、愛国心あふれる優秀な官僚だったとのこと。本書には、専門家が監修している様子が特に見られなかったので、私は、平凡社の大百科事典で確認してみました。すると、やはり同じような説明がなされています。(ちなみに「マキアベリ」という見出し語でした)埋もれていたマキアヴェッリを再評価したのは、ドイツのヘーゲルだそうです。考えてみれば、歴史は後世の人間が、都合良く書き換えますから、志途中で失脚したチェーザレが本当に冷酷非道だったかどうかも分かりません。

このようにマキアヴェッリの人生と人間性を理解した上で、君主論の解説部分を読んでみると、現代に読まれるべき中身であることがよくわかります。

  • リーダーが組織を守るための方法は、リーダー本人が人から恐れられ、また人から恨まれないことである。恨まれないためには、人の名誉や財産を奪わないこと。
  • リーダーには正義と力が求められる。正しくとも力なき者は誰も守れない。部下は自分を守ってくれない者に忠誠は誓わない。
  • リーダーには人の意見を聞く英明さが必要。せっかくの良案を潰す環境では、追従者のみしか残らない。おもねる者は、組織に巣くうペストである。
  • リーダーは先を見通す目を持たねばならない。そのためには歴史に学ぶ必要がある。粉骨砕身、日々努力を惜しまないリーダーにこそ良運はもたらされる。

なんだかだいぶ引用してしまいましたが、どれも今でも十分価値のある考え方ばかりです。世の中にリーダーが書いたリーダー論はずいぶんありますが、リーダーに仕えた人の書いたリーダー論は、さほど多くはありません。君主論はまさに後者。それだけに貴重な視点があると思いました。

本書では、君主論の示唆に富んだ中身を、他にも数多く紹介しています。現代は、それまでの社会秩序が壊れ、不確実な時代に入ったと言われています。君主論が書かれた乱世の時代と似たような点が多いのではないでしょうか。リーダーのあり方について考えさせられた一冊でした。

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