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2009年3月19日 (木)

教員改革

「教員改革 「問題教員」と呼ばれる彼らと過ごした三年間」鈴木義昭著(東洋出版)

いきつけの書店で、ある教育書を探していたとき、本書のものすごいタイトルが目に飛び込んできました。巷間よく使われる「教育改革」ではなく「教員改革」。通常「改革」という言葉は、人には使いませんし、ブラインドカーテンと思われるグレーの表紙ですから、つい洗脳をイメージしてしまいました。

しかし当然ながら、内容は極めて真っ当な「教員論」「指導論」でした。しかも教育書にありがちな「べき論」ではなく、教育行政経験者らしく、実現可能な改革の道筋を示しています。

本書の著者である鈴木さんは、東京都で長年教員研修の企画・運営・評価に関わってきた方です。それも、普通の研修ではありません。

  1. いわゆる指導力不足教師を対象とした「指導力ステップアップ研修」
  2. 体罰、セクハラ等、服務事故を起こした教師を対象とした「服務事故再発防止研修(通称モラルアップ研修)」

相当ストレスのたまる仕事だったと思われますが、その仕事をこうして書籍の形でまとめて残されたという事実に、まず素直に感動します。そしてこの大変な職務について、本来の目的「再教育し、現場に復帰させること」を見失わずに実施されたという事実に圧倒されます。このあたりのつらさについて、鈴木さんは「まえがき」で次のように書いています。

SU研修もMU研修も開始当時は、(中略)私たち担当者の仕事は、指導力不足と認定された教師をいじめて退職に追い込むことであるかのように誤解している人もいた。私たちのことを、「首狩り人」「撃墜王」などとふざけて呼ぶ人もいた。(中略)「うんと懲らしめてください」と言われたこともある。(中略)仕事に誇りを持っていた私にとって、「首狩り人」「撃墜王」などと呼ばれることは、不愉快であり悲しいことであった。

私も、本書を読むまで、こうした研修は懲罰的なものであると考えていました。しかし、実際は「指導力不足」の中身、つまり「どこが、どう問題なのか」をきちんと分析して本人に示し、個別に研修しているのだそうです。本書にはそうした分析の手法についても詳細に書かれていますから、おそらく事実なのでしょう。一般に信じられている「指導力の不足した教師を1か所にまとめて研修」とか「薄暗い地下室で一対一になって退職を迫られる」といった研修ではありません。鈴木さんは、そういうイメージを抱いたマスコミの人にずいぶん取材され、大いに困ったのだそうです。(これについては第三章に一問一答が記載されています)

本書で紹介されている「指導力不足」の分析について、私が興味を持ったのは、まずその類型です。鈴木さんは、第四章において5つの型を示しています。

  1. 総合的低知的レベル型(教えられるだけの知的レベルがない)
  2. 「授業」無理解型(授業の原理を理解できない。)
  3. コミュニケーション不全型
    • コミュニケーション拒否型
    • 自己満足コミュニケーション型
    • コミュニケーション誤解型
  4. 評価不能型(何でも褒める、など評価軸を持った指導ができない)
  5. 社会人失格型(人間や社会人としての的確性に欠ける)

このうち、圧倒的に多いのが3と4だそうです。これを受けて、鈴木さんは、授業におけるコミュニケーションについて、教師と子どもの対話例を示し、具体的に説明しています。これは非常に分かりやすい例でした。第五章では、時代とともに求められる教師像が変わったことを、ご自身の高校時代の恩師を例に述べています。学ぶ側の意識が変わった現在では、教え方もそのように変わらねばならない、というのです。

そして第六章においては、「指導力不足教員対策」として、どのような研修をどんな目的で組めばよいのか、ということを具体的に書いています。「指導力のある教師はいかにして、いつそれを身につけたのか」を明らかにしながら、「若いうちに指導力を身につけさせるため、経験年数に応じて重点化された研修を行い、若年教師の校務分掌を少なく」といった主張を行っています。どれも非常に納得できる提案でした。鈴木さんの提案は、さらに大学での教員養成方法や、勤務評価等にも踏み込んでいます。どれも現場と行政の両方に知悉した鈴木さんならではの主張です。

鈴木さんと同じ内容の研修を担当される方はそう多くはないと思いますが、本書は一般的な研修や教師教育の視点で見ても、とても価値ある本だと思いました。巻末付録には実際に鈴木さんが作られた研修用資料が掲載されているので、鈴木さんがなさった研修をイメージしやすいのではないでしょうか。教育現場の方よりも、管理職や委員会の方にお勧めしたい一冊です。

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