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2009年3月23日 (月)

月館の殺人

「月館の殺人 (上)(下)」佐々木倫子漫画・綾辻行人原作(小学館)

日本の漫画は世界で一番発達している、とよく言われます。それは、内容や作画のレベルのことだと思っていたのですが、どうやらターゲットの細分化、という点でも今はすごいことになっているようです。

本書は、そもそも私の好きな漫画家の一人である佐々木さんの作品と言うことで購入しました。けれども読んでみると、単純なミステリ漫画ではなく、「テツ漫画」というジャンルの本だったのです。

「テツ」と聞いて、ぴんと来る方は、おそらくその方面の方でしょうtrain。そうです、「テツ」とは鉄道愛好家(マニア)のこと。本書は、広告等に「テツ道ミステリ」と紹介されているように、テツが多数登場する漫画です。タイトルの通り、殺人事件が起こる本格的なミステリーなのですが、佐々木さんの画力と構成力のおかげで、謎解きの中に、テツのマニアックな様子が生き生きと描き出されています。
前半のあらすじは次の通りです。

主人公の女子高生、空海(そらみ)は、電車嫌いの母親のせいで、生まれてから一度も電車に乗ったことがない。その母が死去し、天涯孤独と思われたが、ある日祖父の代理人を名乗る弁護士の訪問を受け、「財産分与の件で、祖父に会いに北海道まで来て欲しい」との依頼を受ける。
弁護士の手配により、空海は寝台特急「幻夜」に乗る。乗客は彼女以外6名。しかも全員テツだった。彼らの奇妙なふるまいと初めての列車に、空海は混乱するばかり。そのうちに乗客の一人、日置が何者かに殺害される。出発から終着の月館まで止まることのない特別特急「幻夜」。犯人は、乗客?乗務員?
いつのまにか、祖父の待つ終着地・月館(つきだて)との連絡も不通になっていた。やむなく車掌判断で途中停車することになった「幻夜」。下車するため、車両最後尾に移動した空海は、列車につながる一本の廊下を目撃する。戸惑う空海に、車掌は「ここは『月館』です」と告げる。

漫画を担当した佐々木さんは、「動物のお医者さん」という漫画でブレイクした方で、ご存じManga_2 の方も多いはずです。細部まで描き込む画風のせいか、多作ではありませんが、いつも印象的な作品をお描きになっています。ことに左のコマのように、活字とは別に手書きの文字と絵を組み合わせて、ストーリーを進める、というのが佐々木作品の特徴です。この手法により、このページでは、苦い飲み物が苦手でジュースが好き、という「テツ」の様子がよく伝わってきます。原作者の綾辻さんが、あとがきに「本書は佐々木さんとの共同作品」と書いていますが、佐々木さんの漫画無くして成立しないお話しだったことでしょう。

さらにこの漫画では、他に、巻末に掲載されている詳細な用語解説も注目です。なにしろ「テツ漫画」ですから、作中に専門用語やテツの間でしか了解されていないエピソードなどが頻発します。まじめに解説されたものもあれば、どこまで本気なのかわからない解説もありますが、不真面目なものも含めて楽しめる解説です。代表的なものを一つ取り上げてみましょう。

【北陸鉄道浅野川線HL系台車枕バネ】鉄道趣味の奥深いところは、「誰一人として、自分と守備範囲が完璧に一致する人がいない」という趣味フィールドの広さである。(中略)ということで、テツである筆者ですら、その良さはよくわからないが、この広い空の下には「台車の枕バネが三度の飯より好き!」だったり、さらに「それも浅野川線のHL系に限る」という輩が存在するのであろう。(後略)

言葉自体はまったく説明していないのですがconfident、テツの本質がよく分かる解説となっていて楽しめます。本書は、月刊IKKIという雑誌に連載された漫画とのこと。漫画読みを自認する私としては、恥ずかしいことに、この雑誌の存在を知りませんでした。この「テツ漫画」というジャンルは、かなり確立されていて、他にも「鉄子の旅」「阿房列車」という作品が発売されているようです。

究極に発展したと思われた日本の漫画ですが、このようにニッチなジャンルでも存在感を示しているということに感動しました。社会が成熟したため、「もう発展の余地はない」などと言われている分野は、漫画以外にも、各業界にたくさんあります。けれども、案外そう思い込んでいるだけなのかも知れません。本書を読んで、そんなことを思いました。

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