« 12歳の文学 | トップページ | ブックブログ2周年 »

2009年4月23日 (木)

教育×破壊的イノベーション

「教育×破壊的イノベーション」クレイトン・クリステンセン、マイケル・ホーン、カーティス・ジョンソン著/櫻井祐子訳/根来龍之解説(翔泳社)

本書は、私が毎週購読しているビジネス雑誌の書評欄で紹介されていたので購入しました。代表著者であるクレイトン・クリステンセンさんは、教育学者ではありません。ハーバードビジネススクールで、企業運営とりわけイノベーションについて研究する専門家です。
その方がどうして教育に関わる本を書いたのか、興味を持ったので読んでみることにしました。

「イノベーション」とは、ビジネスの現場でよく使われる言葉で、革新的な手法で新たな価値を生み出すこと、といった意味です。本書のタイトルは「×」が含まれているのは、
 教育界に「破壊的イノベーションを」
という意味です。このように申しますと、この手の制度改革提言をよくお読みの方は、「ああ、またいつものやつね」と思われることでしょう。確かにこれまで教育については、門外漢や素人が、様々な提言をして(言いたい放題やって)きたように思います。翻訳物でもあり、私も当初はそう思わぬでもありませんでした。

しかし本書は違います。少なくとも私がこれまで読んできた、教育の制度改革には全くなかった視点です。本書を読みながら、正直理解しにくい点がいくつかあったのですが、読み終えた今、非常に重要な提言だと理解できました。まさにイノベーティブな考え方です。
この考え方の入り口を端的にご説明するために、根来さんがお書きになった、巻末の「解説」の冒頭をご紹介いたします。(太字は私です)

教育システムほど、常に批判を受け「改革」が叫ばれているものは少ない。(中略)そして、教育システムをめぐるほとんどの議論は、その問題の原因を誰かの怠惰や悪意に帰するという形で行われる。曰く、「先生方が真面目に仕事をしていない」「○○という団体が日本の教育をだめにした」というわけだ。
しかし本書の著者である、クレイトン・クリステンセンらの発想はまったく異なる。本書は、教師たちや教育に関係する団体(政府や組合など)が真面目に「改善」に取り組んでいるがゆえに、根本的な改革がかえって阻害されていると考える。

いかがでしょうか。教育を良くしていこう、という取り組み自体が、かえって教育を悪くしている原因だというのです。にわかには信じられませんよね。これを理解するためには、クリステンセンさんが述べている、イノベーションの二つの型を理解する必要があります。

Innovation イノベーションには、既存のものを改良していく「持続的イノベーション」と、既存のものを離れ、全く新しい土台を打ち立てる「破壊的イノベーション」とがあるといいます。これを左の図で表してみました。既存の土台に積み重ねていくのが「持続的イノベーション」、それを離れて色も形も違うものを生み出すのが「破壊的イノベーション」というわけです。
破壊的イノベーションの方が革新的なのですが、ニーズがなければ土台に積み重ねて行くことはできず、やがて消えゆく運命となります。つまり、どちらのイノベーションが優れているということはなく、受け取る側(ユーザーや消費者)の問題ということです。クリステンセンさんは、これを企業運営の専門家らしく、ソニーがトランジスタ型テレビを発売したときの話で説明しています。

当時切れた真空管を取り替えるビジネスで成り立っていた家電販売店業界は、真空管のないテレビを売らなかった。ソニーは、ウォルマートなど、従来家電を扱わなかった流通を利用し、トランジスタ型テレビを爆発的に普及させた。

この販路の切替こそが「破壊的イノベーション」だったといいます。消費者は、真空管の切れないテレビを望んでいたのです。

翻って教育を考えると、多くの人が学ぶ意欲を持ち、講義型一斉授業でも十分な成果を上げられた時代は、とうに過ぎたのに、いまだに持続的イノベーションを続けていることが問題だといいます。PCやインターネットなど、イノベーティブな道具が導入されても、既存の土台に無理矢理置いているので効果を発揮していないと。
考えてみれば、19世紀の教育は、教会や集会所などで様々な年齢の子どもたちがてんでに学ぶスタイルだったのを、20世紀に入ってから「学校」を生み出し、発達段階をそろえて効率的に学習させる、と、破壊的イノベーションを行っていたのです。にもかかわらず、21世紀になってもなお、従来の改良を続けているからいくら予算を付けても効果がないのだと。

では、具体的にはどうすべきか──クリステンセンさんは、本書の最終章において「宛名付き」の提言をしています。

  • 学校教育制度を先導する、選出官僚や学校管理者へ
  • 慈善家や財団へ
  • 企業家へ
  • 教育大学へ
  • 教育大学院へ
  • 教師、親、生徒へ

私にとって目から鱗の教育提言でした。もちろん、組織論としても商品開発の視点としても参考になりました。文部科学省の方には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

|

« 12歳の文学 | トップページ | ブックブログ2周年 »

教育書」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/45933393

この記事へのトラックバック一覧です: 教育×破壊的イノベーション:

« 12歳の文学 | トップページ | ブックブログ2周年 »