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2009年4月20日 (月)

12歳の文学

「12歳の文学 小学生作家が紡ぐ9つの世界」水野隆・古川美奈 企画(小学館)

このブログでは、紹介する書籍にカテゴリ設定をしています。本書を紹介しようと思ったとき、正直カテゴリをどうしようか迷いました。その他の書籍にすべきか、小説・エッセイにすべきか…。結局両方にしたのですがconfident

本書は、小学館が行っている「12歳の文学賞」というコンテストの第三回において選ばれた優秀作品、その入賞者の言葉、審査員の選評などを掲載した書籍です。しかし、単純にそんな紹介をするのがはばかられるほど、選ばれている小学生の「小説」は、すばらしいものばかりでした。

この文学賞の存在は、本書を書店で見かけるまでは、全く知りませんでした。小学生限定、という非常に限られた応募資格の中で、非常に多くの応募作品があったという事実に驚かされます。

  • 小説部門:1,357作品(2,000文字以上という制限)
  • はがき部門:891作品

日本の小学生は、だいたい700万人くらいですから、非常に乱暴に言えば、3000人に一人くらいが応募していることになります。しかも、本書掲載のデータによれば、応募者のほとんどが小学校6年生ということですから、実質的には応募割合は、もっとずっと多いことでしょう。すばらしいことです。

こうした裾野の広さもさることながら、作品のすばらしさにも心を奪われました。まず何と言っても、大賞作品の「陽射し」。応募当時小学校6年生だった、東京都の中石海くんが書いたこの作品は、小学生の何でもない日常を舞台にしながらも、善意の暴力や同調圧力、少年の心の葛藤などを見事に描いています。このあたり、審査員のあさのあつこさんの選評がみごとに説明しています。

今回の大賞受賞作「陽射し」は文句なく一級の風格のある作品だったと思います。
文章力とか構成力だけを取り上げれば、過去の受賞作の方が勝っているかもとも思うのですが、「陽射し」には圧倒的な迫力がありました。こちらの精神のゆるみを容赦なくついてくる迫力です。(中略)人間の善意と悪意について、ここまでしっかとしたリアリティをもって書かれた作品というのは珍しいのではないでしょうか。(中略)これだけの作品が、今、少年によって生み出されたことを心から称賛したいと思います。

中石くんの作品は、ぜひ本書でお読みいただきたいですが、あさのさんが「こちらの精神のゆるみを容赦なくついてくる」と、お書きになっている通り、本当にすごい迫力でした。

優秀賞の2作品、「恵比寿様から届いた手紙」「小っちゃなヒーロー」は、一転して楽しい作品です。「恵比寿様から~」は、「浦島太郎」など昔話のパロディ。「小っちゃな~」は、大阪弁を操る、働きアリの「正敏」が活躍する物語。どちらも、小学生でないと書けない、自由で元気な作品でした。
個人的には、この「小っちゃなヒーロー」が最も気に入っています。主人公の「正敏」が、みんなを代表して闘うアリを決めるくじ引きの時、隣のアリに当たりくじを差し替えられて、闘う羽目になる、というシーンの描き方は、さすが大阪の子どもやなあ、と思いました。

Saibara それから本書では、審査員の言葉が非常に印象的でした。それは、本書が、第三回コンテストの報告でありながら、第四回の募集になっているからかもしれません。西原理恵子さんの選評は、左のように、サイバラさんらしい毒舌漫画で楽しく読めましたし、顧問の、宮川俊彦さんの文章は、教育関係者らしく、「入選するより大切なこと」について、子どもたちにもわかりやすく書かれていました。

新しい学習指導要領では「言語力育成」ということが、中心の一つに据えられています。小説を書くというのは、小学生にはなかなかハードルの高い作業ではありますが、こうした書籍が一つのきっかけになるのではないかと思いました。小学校の図書館に備えて欲しい一冊です。

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