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2009年5月11日 (月)

拝啓十五の君へ

「拝啓十五の君へ アンジェラ・アキと中学生たち」NHK全国学校音楽コンクール制作班編(ポプラ社)

ある日の深夜、なんとはなしにテレビのスイッチをつけると、中学生合唱コンクールのドキュメンタリーをやっていました。舞台は長崎県五島列島の中学校です。昔から音楽は苦手で、合唱にはまるで興味のない私でしたが、なんとなく見るうちに、ぐいぐい引き込まれ、最後は、涙が止まりませんでした。

後日この番組は「拝啓十五の君へ」というドキュメンタリーだということを知りました。愛知県、兵庫県、宮城県の中学校を取材した、他の回もあるのだそうです。それらも見てみたいなあと思っていたとき、書店で偶然本書を発見しました。漫画や映画のノベライズ版というのは、よくありますが、これはドキュメンタリーのノベライズ版と言えるでしょう。番組の様子が目に浮かぶように伝わってくる、小気味よい文章です。

当然本書には、放送で取り上げられた内容がすべて収録されています。「合唱コンクール」という単一の中身に、3つもの番組が作られたのは、それだけ価値ある営みがあったと言うことでしょう。素晴らしいことだと思いました。これを成立させているのは、なんといっても、課題曲「手紙」という歌、それを作ったアンジェラ・アキさんの存在です。
本書の冒頭には、まず「手紙」の歌詞があり、その後アンジェラさんによる、この歌ができた経緯が一人称で語られています。以下に要約してみました。

NHKから課題曲の依頼を引き受けたものの、その難しさと責任の重大さに考え込んでしまった。そんなとき、10代の時に自分が書いて母に預けた『30歳の自分へ』という手紙を受け取る。そこには10代の悩みや愚痴が延々と綴られていた。ところが、当時それほど深刻だった悩みの内容を、30歳の自分は全く忘れている。そう、時間が解決する悩みもあるのだ。
中学校を出た後も、さまざまに悩み傷ついてきた。多くの挫折も味わった。もしそのとき、この「未来への自分への手紙」を読んでいたら、もっと自分を信じてあげることができたはず。
こんないきさつから、課題曲『手紙』は誕生した。

感動的な言葉です。この言葉が、単に歌のプロモーションでないことは、番組中でアンジェラさんと中学生のやりとりで分かります。悩み多き彼らの言葉を、その細い体でがしっと受け止めてくれるのです。お説教ではなく、このように共感してくれる大人の存在が、不安をいっぱい抱えた中学生にとって、どんなに力になることでしょう。

アンジェラさんは、長崎と兵庫の中学校には、それぞれ2度訪問したようです。番組中ではひとつながりで放送されたであろう2度の訪問を、本書では、あえて章を分けて記述しています。これにより、登場する中学生の変化や成長がとてもよく伝わってきました。また、彼らを支えるアンジェラさんの優しい人柄や、中学生を受け止める能力の高さがよく伝わってきます。

本書を読んで、私も中学生の頃は、数多く悩み傷ついていたことを思い出しました。それらが、いまとなっては実に他愛ない悩みだったと言うことも。にもかかわらず、今悩みに直面している中学生を、共感的に受け止めることができません。えらそうに、説教してしまうことさえあります。
本書は、こうした忘れやすい大人たちに、少しだけ若き日の気持ちを思い出させるツールとして、また、今まさに悩みの最中にいる中学生にとっては、少しだけ悩みを和らげる薬として機能するのではないかと思いました。
中学校の図書室には、ぜひ備えて欲しい一冊です。

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