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2009年6月 8日 (月)

独断流「読書」必勝法

「独断流『読書』必勝法」清水義範著/西原理恵子イラスト(講談社文庫)

以前にも清水さんと西原さんのコンビの本は紹介しましたが、今回も前回同様、爆笑&ためになる一冊です。二人が、古今東西の名著と言われている本をそれぞれの視点で「解説」してくれます。
とはいえ、一癖も二癖もある二人のことですから、まともな解説であろうはずがありません。帯にもある通り、確かに全く新しい読書ガイドです。特に西原さんのと、清水さんのウンチクが印象に残りました。

本書では19冊の本が取り上げられています。さきほど「古今東西」と書きましたが、正確にはあまり「今」はありません。昔の作品が多いのです。これはきっと、生きている人の批判が書きにくいからだろうと思われます(独断流)think
けれども腰が引けているというわけではありません。むしろ積極的な解釈によって、私自身、たくさんの新たな視点をもらいました。

冒頭の第1章では、有名な「坊ちゃん」を取り上げています。この余りに有名な小説のどこを解説するのだろうと思って読み始めてみると、目から鱗が落ちまくりました。

実は今回読み返してみて思いがけないことを発見した。小説「坊ちゃん」の中に、松山という地名は一度も出てこないのである。「四国辺のある中学校」へ行くことになった、と書いてあるだけなのだ。小説中に、二十五万石の城下町でこの程度か、という言及はあるが、松山とは言わない。(中略)悪口を並べ立てる代わりに、漱石はその地を匿名にしているのだ。

へーっ!と思いませんか。松山へ行ったことのある方ならご存じと思いますが、松山で坊ちゃんは、観光やお土産物屋のスターです。なのに作品中には全く地名が出てこない、しかも悪口ばかり、とは驚きますよね。けれども、これは驚きの序章に過ぎません。清水さんは、作品の叙述や漱石研究の文献を頼りに、坊っちゃんで漱石が本当に描きたかったことを「独断で」明らかにしています。この解説のおかげで、私は漱石に対する理解が深まり、読んでみたい、という気持ちにさせられました。

Saibara 本書で見逃せないのは、西原さんのイラスト(というか漫画)です。取り上げる作品は、どうやら清水さんが選んでいるようなのですが、それに対して、西原さんもイラストで感想をコメントしています。で、これがまた辛辣で的確でいい加減。清水さんのウンチクが鰻丼とすれば、西原さんのイラストは山椒と言えるでしょう。なくても成立するけど、あればぐっと味わい深くなる、そんな存在です。

このあと「ロビンソンクルーソー」と「ガリバー旅行記」を対比しながら、文明批判の観点で味わうと、また違った見え方になる、という解説や、「ハムレット」「伊豆の踊子」を現代の感覚で読み取ろうとすると間違える、という解説が続きます。どれもとても面白く、一気に引き込まれてしまいました。

そして私にとっての圧巻は、第11章「河童」でした。これは、言わずと知れた文豪芥川龍之介の作品です。清水さんはこれを作品構成に幾つも破綻がある、とめった斬りにし、同時にその破綻の原因を断定しています。清水さんは、「独断」と謙遜しますが、私には非常に説得力のある説でした。これはきっと、清水さんが物書きだからこそ導き出せた結論でしょう。影響されて、私も「河童」を読み直してみたくなりました。説得力のあるウンチクは、まことに人の行動に影響するものです。

正直本書は、このブックブログの参考になればと思い購入しましたが、結果は、参考ではなく全面降伏した感じです。本書で取り上げられている本の多くは、読み直してみたいと思えました。読書好きの方には、強くおすすめします。

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