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2009年7月 6日 (月)

「大きなかぶ」はなぜ抜けた?

「『大きなかぶ』はなぜ抜けた? 謎とき世界の民話」小長谷有紀編(講談社現代新書)

もともとはロシア民話であるにもかかわらず、50歳以下で「おおきなかぶ」の話を知らない日本人は数少ないでしょう。ほとんどの国語教科書(小学校1年生)に、40年以上掲載され続けている民話です。ですから本書のタイトル「なぜ抜けた?」という問いは、一見愚問に見えます。なんたって、みなさん「最後にネズミが参加して抜けたんでしょ」と知っているわけですから。

ところが、ことはそう簡単ではありません。「大きなかぶ(原題:かぶ)」は、民話としてはバリエーションの少ない話だそうですが、それでも私たちが知っている話の他に2種類ほどあるようです。おなじみの「おじいさん、おばあさん、孫、犬、猫が力を合わせても抜けなかった」というところまでは一緒なのですが、次のように展開します。

  • そこへネズミがひょっこりあらわれて、カブをたべてしまい、引っこ抜いた!
  • そこへ一本足がやってくる。(略)抜けない。そこへ二本目の一本足がやってくる。(略)最後に五本目の一本足が加わり、ついにカブが抜ける

「一本足」というのはわけが分かりませんがfoot、ネズミが食べてしまう、というオチは、先生が聞いたら卒倒しそうな話ですね。何しろ、「小さなネズミの力が加わったことで、カブが抜けたという価値に気づかせたい」なんて、教師用指導書には書いてあるのですから。けれども私は以前、教科書編集をしていた時、この部分を読んで「ほんとにそうかなあ」と疑問に思っていました。昔話には、こうした繰り返しパターンはよくあり、子どもたちは大好きです。だから、それだけを楽しんだらいいのにな、と思っておりましたところ、本書でもこの繰り返しを「鎖」に例えた上で、次のように解説しています。

こうして新しい登場人物が加わるたびに長くなっていった鎖が、かぶが抜けたことによってぷっつりと切れ、話は終わる。鎖が切れて初期状態に戻ることが大切なのであって、かぶが抜ける理由は問題ではない。みんなで力を合わせた結果であろうと、鼠がかじった結果であろうとかまわないのだ。

「初期状態に戻る」話というのは、確かに良くあります。昔話を楽しむ上で、大切な視点だと思いました。このほかにも、「なぜカブなのか」「なぜ種をまく、ではなく『植える』なのか」など、興味深い解説がたくさん書いてありました。

本書では、このほかにも有名無名の昔話や民話について、その成り立ちや背景、バリエーション、含意などについて、16名の執筆陣が解説しています。それぞれ魅力的なタイトルとともに、興味深い解説がされています。

  • なぜ「じゅうたん」が空を飛ぶのか?(イラン)
  • 森にお菓子の家があるのはなぜか?(ドイツ)
  • 水辺の美女が愛される理由(東スラヴ)
  • おばあさんはなぜ桃を食べたのか?
  • どうして桃太郎に出生地があるのか?

などなど。国の文化の話もあり、童話作家の作家論もある、とてもバラエティ豊かな内容になっています。教科書を作っていた時、この手の本はずいぶん読んだつもりでしたが、それでも知らない内容がほとんどでした。私もまだまだですcoldsweats01

そして、最終章は、「絵本の声が聞こえますか?」と題して、絵本というメディアがどのような構造で何を伝えているか、を解説しています。これは、絵本をよくご覧になる方は、一読されてはいかがでしょうか。絵本の読み方の基礎が分かります。

タイトルに惹かれ、この方面の本を久しぶりに読みました。児童文学に興味のある方にはもちろん、小学校の先生にもぜひお勧めしたい一冊です。

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