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2009年7月 9日 (木)

価値ある出会いが教師を変える

「価値ある出会いが教師を変える」佐藤正寿著(ひまわり社)

著者の佐藤さんは、私も良く存じ上げているすばらしい先生です。本書の存在は、発刊直後から知っており、書店に行くたび探してはいたのですが、なかなか「出会え」ませんでした。
ところが先日、ある大手書店に久しぶりに行ってみると、本書が平積みになっているではありませんか。反射的に手に取り、購入してしまいました。このところ読みたい本が目白押しで、私の家は未読の本で一杯になっているにもかかわらず。

書店からの帰宅途中、電車の中で一気に読んでしまいました。内容が薄かったからではありません。読み進めやすい工夫が、随所にちりばめられていたからです。私は次のような工夫を発見しました。

  1. 時系列で編集されている
  2. 一文が短く簡潔
  3. 取り上げるエピソードが具体的
  4. 振り返りをうながす工夫
  5. 書き手の視点が徹底的に謙虚

まず1.について。本書は全部で5つの章で構成され、紹介されているエピソードは、おおよそ時系列で並んでいます。本書の想定読者は、おそらく若い先生もしくはこれから教師を目指そうとしている学生さん。当然、佐藤さんの教師人生のスタートから読み始めた方がしっくりくる、と考えてこうした構成にしたのではないでしょうか。
2.について。きちんと数えてはいませんが、本書の文は、最長でも30文字以内、ほとんどが20文字以内です。私の文章も一文が短い方ですが、それでも30文字を超す場合が多々あります。少し文章を書いたことのある方ならご存じの通り、強く意識しなければ一文は短くなりません。この簡潔さと分かりやすさは、今まで私が読んだ中では、以前ご紹介した「教育工学への招待」と双璧です。
次に3.の「具体的」について。本書に挙げられた失敗例や出会いの話は、どれも実名入りで具体的です。しかも共感しやすい事例が選ばれています。このあたりは、さすが教材研究の達人、とうなってしまいました。
Matome さらに4.の「工夫」は、各章の最終ページにあります。左の写真のように、その章で述べた内容が、箇条書きにまとめられて記載されているのです。これはプレゼンなどでよくやる手法で、確認と振り返りの効果があります。読み直す時にも便利に使えることでしょう。
最後は5.の「謙虚」です。私は、これが本書最大の特徴と言っても過言ではないように思います。少し前の世代の教育書ですと、エライ先生が上から目線で書いた本が少なくありませんでした。ところが本書は書き出しからして違います。

教員になれればどこでもよかった。大学四年の時に地元秋田と横浜市の採用試験を受けた。どちらも一次試験であえなく不合格。(中略)もともと私は優秀ではなかった。(中略)おまけに運動神経も決していい方ではない。

先生同士の飲み会の席でなら、こうした話題も出ることもあるでしょう。しかし本書は一般書です。場合によっては保護者も読むかもしれません。それなのにこの書き出し。しかも、これだけでなく、学級崩壊しかけた話や、不適切な発言で子どもを傷つけてしまったこと、家庭科を教えるのが苦手だったことなど、佐藤さんの失敗や弱点が次々に明らかにされているのです。さらに「まえがき」にも

今なお未熟な点があり、学び続けなければならないと思っている

と書いておられます。きっとこれが本心だからこそ、このようにいくつもの失敗や弱点が書けるのです。失敗を心から反省したからこそ、「私はこうやって問題に取り組んできた」という説明が可能なのです。これは、誰にでもできることではありません。すでに、押しも押されぬ「名教師、佐藤先生」であるにもかかわらず、今なお、子どもたちばかりか、自分自身の欠点とも常に真剣に向き合い、考えているのです。少しの成功に酔い、すぐに自惚れてしまう私にとっては、感じることの多い本でした。

本書は、内容もさることながら、物事への取り組み姿勢という点で、たいへん参考になる一冊です。冒頭「若い先生向けであろう」と書きましたが、それは半分外れではないでしょうか。今まさにあなたが読むべき本なのです。

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