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2009年7月16日 (木)

「教えて考えさせる」授業を創る

「『教えて考えさせる』授業を創る 基礎基本の定着・深化・活用を促す『習得型』授業設計」市川伸一著(図書文化)

おそらく教育の専門家以外の方が、本書のタイトルをご覧になったら「なに当たり前のこと言ってるの?」という反応ではないでしょうか。日常会話においては、「教える」ということと「考えさせる」という言葉は、あまり意味的に区別されていませんから。
けれども専門的には、この二つの言葉の意味は大きく異なります。本書は、教えることと考えることに着目しながら、新しい授業設計を提案している本です。

平成4年度から本格実施された学習指導要領(生活科が新導入)の頃から、教育界では「指導より支援」「教えるより考えさせる」と言われるようになりました。教え込むのではなく、子どもが自ら発見するように手伝うのが教師の仕事、というわけです。この考えは、今でも根強くありますし、もちろん間違った考え方というわけではありません。「けれども」と市川さんは言います。

中学、高校と学年が上がるにつれて「授業がわからない」という生徒が増え、定期テストをやってみて「ちゃんと教えた(はず)なのに、なんでこんなにできていないのだ」と嘆く先生が多いのも事実です。(中略)
「子ども主体」といって、自力解決や討論を中心に進められる授業で、子どもが何を理解できたのか、どのような力がついたのか、ということは把握されているでしょうか。「考えたから」「活動したから」「話し合いをしたから」といって、よい授業だったといえるわけではありません。(中略)指導内容の明確な「習得型」の授業では、問題解決に必要な予備知識をていねいに教えたり、子どもの理解状態をモニターすることが不可欠です。

これが「まえがき」に述べられている、本書の執筆動機の一部です。おそらくこれが本書の趣旨ではないでしょうか。私なりに市川さんの言う「教えて考えさせる授業」のポイントをまとめてみました。

  • 「教えて考えさせる授業」は、授業全般に通じる万能な授業手法ではなく、あくまで習得型学習において有効である
  • 基盤となる知識を確実に習得させた上で考えさせた方が、検証可能な学習手法になるし、全員が考える授業になるのではないか
  • とはいえこの授業法はあくまで発展途上。研究途中の授業手法であり、改良の余地がまだまだある

この授業法の詳細についてはぜひ本書をお読みいただくとして、具体的な説明を一つだけご紹介しましょう。
Heiko たとえば平行四辺形の面積の求め方を学習する場合、左図のような求め方は、最初に教えるのではなく、子どもたちに考えさせて、その方法に気づかせる、という授業が一般的です。確かにそれも有効な授業手法と思われます。けれども、クラスの誰かがこの方法に気づいた時、「おお!いいやり方に気づいたね」などと授業を展開しても、その気づいた子以外の頭の中はどうでしょうか。その発言の意味を理解していないかもしれません。となると、その後平行四辺形の面積の解法を覚えたところで、応用などできませんよね。さらに塾などで先にやり方を知っていた子がいた場合、対処はさらに難しくなります。
Zukei_gazo であればこのような「やり方」については、最初にきっちり理屈と方法を教えてしまい、その後その応用である左図のような図形の面積を求めて行く練習をした方が全員の理解が得やすいのではないか、というのです。なるほどなあ、と思いました。

本書を読んで、私は「他人にものを教える」ということについて、大きな刺激を受けました。私には「教えるのではなく気づかせるのだ」という指導観が根強くあり、これまで後輩を指導する際、最初にやり方や考え方を丁寧に教えることはありませんでした。けれども一度徹底的に教えてみて、そこから考えさせる、という手法もあるのではないかと思いました。

本書で市川さんが何度も書かれておられるように、この方法論には教育界から多くの反論があることでしょう。しかし異論や反論が出るのは良いことです。少なくとも私には、ビジネスの現場でも活用できる考え方であると思えました。

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