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2009年8月24日 (月)

ゆるすということ

「ゆるすということ もう過去にはとらわれない」ジェラルド・G・ジャンポルスキー著/大内博訳(サンマーク文庫)

世の中には様々な出会いがあります。人との出会いだけでなく、本との出会い、音楽との出会い、組織との出会い…などなど。何かの歌詞にもあるように、「出会いは偶然」というのが基本なのでしょうけれど、私自身の経験を振り返った時、必然としか思えないような出会いがいくつかありました。
本書もそのうちの一つです。

先日どうしても許せないことが、私の身に降りかかりました。それも、二度三度と。「悪事も失敗もしていないのに、どうしてこのような仕打ちを受けるのか」と、怒りと悲しみ嘆きが織り混じったような気持ちがわき起こりました。とはいえ、こうしたネガティブな感情は、誰にとっても利益がありません。組織にとっても害悪です。ですからできるだけ平静を装い、自分の感情をできるだけ抑え込みました。無理矢理納得させようとしたのです。
ところが気持ちを抑え込むうち、今度は、自分が無能で無価値な人間に思えてきました。そもそも自分は誰からも必要とされていない人間だったのだと思えてきたのです。無価値な自分への気づきが心に芽生えると、もう止められません。「無能の証拠」がどんどん見つかるのです。「ああ、人はこういう時に自殺を考えるのだろうなあ」と思いました。

そんなとき、本書と出会いました。私は宗教がかった生き方本や、いわゆるスピリチュアル本などは、大嫌いです。これまでであれば、たとえ見かけたとしても手に取ることすらなかったことでしょう。けれども本書の見返しに記載された本文の一節に惹かれました。

  • ゆるすことで、私たちは自由になります
  • ゆるしによって、自分の本当の姿がわかります
  • ゆるしは癒しをもたらします
  • ゆるしは自分も他人も癒します

「ああ、きっと著者は牧師さんなのだな。キリスト教の赦しを勉強するのもいいな」などと思って購入したのです。ところがそれは大間違いでした。著者のジャンポルスキーさんは、精神科医。つまり医学的な観点からゆるすことの効能を説いているのです。

とはいえ、本書は私のように許し難い経験をしてきた人を対象としています。「健康にいいからゆるしましょう」などと言っても通じるはずがありません。ですから本書は論理的には説明しないのです。「ゆるすとはどういうことか」を、事例や具体的な作業によって説明しています。これはまるで「きっとどれかが、あなたに当てはまりますよ」というメッセージのようです。

私がもっともグっと来たのは、第1章「読者の皆さんへ」の冒頭です。

「ゆるす」ということを考える前に、まずノートを用意して、最初のページに、ゆるせない人の名前を書いてみましょう。リストには、気が引けても絶対にゆるせない人の名前も入れてください。誰をリストに入れるかについては、以下にあげるいくつかのパターンが参考になるでしょう。
親・家族・親戚・配偶者・恋人・権威がある人・自分の身体・過去と現在の思考、行動・神・運命・事故・犯罪

これを実際にやってみようとすると、結構難しいのです。心では「許し難い」と思っていたのに、リストに文字として書こうとすると、「本当に許し難い人か?」と悩んでしまいます。それでも無理に書いてみると、書き込んでいる自分のさもしさに愕然とさせられます。
これが著者のジャンポルスキーさんのねらいではないでしょうか。こうして自分の「ゆるせない気持ち」と向き合ってから本書を読んでみると、「なぜゆるさねばならないのか」ということがよくわかります。練られた授業のような、見事な構成だと思いました。

では私自身、本書を読んですべてを「ゆるせたか」と言えば、まだまだです。ジャンポルスキーさんは、「ゆるし」の性質について次のように書いています。

ゆるしは、妊娠と似ています。妊娠は、妊娠しているかしていないかのどちらかで「ある程度妊娠している」ことはありません。これと同じで「ある程度ゆるす」というわけにはいきません。ゆるしは完全でなければならないのです。

ゆるしは完全でなければならない」ということに、完全なるゆるしに至るには、まだまだ時間はかかりそうですが、本書のおかげでこうした視点を持てたことは幸いでした。まさに必然の出会いだったのです。

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