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2009年9月24日 (木)

私たちのケータイ、ネットとのつきあい方

中学生が考える 私たちのケータイ、ネットとのつきあい方」大山圭湖著(清流出版)

「情報モラル教育」が新学習指導要領に明記されたからか、このところ関連本が数多く出版されているように感じます。このブログでも比較的多く取り上げてきました。これまでそうした本を書いてこられたのは、学者にしても学校の先生にしても、技術的知識をお持ちの方ばかりでした。

ところが本書の著者大山さんは、どちらかといえばパソコンが苦手な方。なのに中学生とケータイについて本をお書きになりました。それだけでもどんな中身なのか興味が湧きませんか。

大山さんの実践を私が取材しようと思い立ったきっかけは、あるフォーラムで大山さんが、「『中学生の、中学生による、中学生のための携帯ネット入門』をつくる」という実践発表をされているのを偶然目にしたからです。
決まりや理屈を解説するだけの、情報モラル教材に限界を感じていた矢先だっただけに、この発表は新鮮でした。そこで、フォーラム終了後、強引にアポイントを取り、取材させていただいたのです。

さて前置きが長くなりました。本書は、基本的にはそのときの取材内容と同じで、大山さんがこの実践を「なぜ行ったのか」「どう行ったのか」を述べています。違うのは、その詳しさ。大きく次の二つの内容で語られています。

  1. 大山さんが捉えた「中学生とケータイ・メディア」の実態
  2. それを受けて実施したディスカッションとパンフレット作りの活動

内容的には1の実態把握と分析に多くのページが割かれています。一読して感じるのは、大山さんが子どもたちに非常に寄り添っているな、ということです。そういえば、取材で放課後にお伺いした際、何人もの生徒や保護者から話しかけられて、取材開始が予定より30分遅れた、ということがありました。横で拝見しながら、「とても信頼されている先生なのだな」と感じたことを覚えています。
では私がぐっときた現状認識をいくつかご紹介します。

  • 私たち大人が「体験」と考えていることと、ゲームやインターネットを使いこなす若者たちが「体験」していることが、大きく離れていることを知りました。彼らの言う「体験」を、「それは体験ではない」と切り捨てたら、対話は成り立たないと言うことも、はっきりわかりました。若者と大人は少しの違いを乗り越えて、互いの文化をしっかりと伝え会うことが大切なのではないでしょうか。
  • ケータイを持っている子どもたちは、決してケータイを持っている少数の子とだけつながりたいわけではありません。ただ、中学校スタートの時の不安な時期を、ケータイを持っている子どもたちとまずつながって、乗り切っていきたいだけなのです。
  • 学校という社会の中で、自分を他者に合わせようとヘトヘトになっている子どもや、周りの子に気を遣いすぎている子どもにとって、ネットの中での付き合いは、気を遣わなくてすむ安心する場所のようです。

いつも中学生と接している先生方には常識なのかも知れませんが、私にはこれらの現状認識が、非常に新鮮に感じました。このほか、本書の各章の最後に配置されている「ケース・スタディ」は、リアリティと説得力がありました。これらはいずれも大山さんが、日々の学校生活の中で、生徒から聞き取ったことなのだと思われます。
ここまで本音が話せる先生だからこそ、その後のディスカッションやパンフレット作りが成立するのでしょう。実際、取材の時には、きめ細かい指導をされていると実感しました。たとえば、作文指導の際は、提出された作文のすべてに丁寧な所見をお書きになっています。小学校の先生には「当たり前」と思われるかもしれませんが、5クラスを指導していたら、作文は約200です。しかも年に何度も実施するとのこと。私だったら絶対にできません。けれどもそうした積み重ねが生徒からの信頼を得ることにつながるのだろうと思います。

結局本書は情報モラル教育を扱った書籍ではありますが、中学校の授業の基本について説明しているのではないかと思いました。できるだけ彼らの言葉に耳を傾け、対等に話し合うことが大切なのだと大山さんはおっしゃっているように感じます。指導論的なものも含め、テクニカルな話題は一切無い本ですが、生徒に寄り添える現役教師の書いた本として一読の価値はあると思いました。

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