« おまけの話 | トップページ | 私たちのケータイ、ネットとのつきあい方 »

2009年9月21日 (月)

何がどうして

「何がどうして」ナンシー関著(角川文庫)

ナンシー関さんをご存じでしょうか。消しゴム版画家またはテレビ評論家として非常に有名な方です。有名人の似顔絵版画とともに繰り出される辛口の評論は、それまでになかったもので、高く評価されていたと記憶しています。

先日古書店で本書を見つけ、読んでみることにしました。10年も前に発行された本ですが、論評はまったく古くなっていません。

私がナンシー関というライターの存在を知ったのは、「小耳にはさもう」という週刊朝日のコラムです。とにかくインパクトがありました。テレビの評論という分野は、それまでにもあったのですが、どちらかといえば、番組の出来、不出来について論じたものが多かったように思います。
ところが関さんのコラムは、出演者、テレビに映る有名人が対象でした。彼らを、気持ちよく切り捨てるのです。しかも単純な悪口ではありません。誰もがなんとなく感じていた好悪感や違和感を、具体的場面を挙げ、巧みな比喩と消しゴム版画で上手に説明してくれるのです。それゆえ、週刊朝日はもちろん、その後連載を開始する週刊文春においても人気コラムになりました。私もそのファンの一人です。

関さんのコラムの特徴は3つあります。まずは、消しゴムを使ったという版画。非常に似ている上に、なんともいえない毒があるのです。たとえば本書の表紙は、かたせ梨乃さんの似顔絵。原画には「何がどうして」の部分に「髪バッサー」という文字が彫り込まれています。どう考えてもポジティブなニュアンスではありません。「髪の毛をバッサーってやっちゃう、かたせ梨乃」というネガティブな感じが良く出ています。

つぎにそのタイトル。コラムの内容が想像しやすい上に、すぐに読みたくなる、読まずにはいられないような切れの良さが特徴です。

  • 「大人になった」安達祐実につきまとう「不吉な予感」
  • 初老の空間においてのみ機能する、若者代表としての山瀬まみ
  • 20年我慢したんだ言わせてくれ、桃井かおりよ、ふつうに喋れ
  • 無言の否定が生んだ悲劇、華原朋美の「ひゅーひゅー」における私たちの責任
  • 三浦友和「洋服の青山」のCMは容赦なく哀しい

どれも「そうだよなあ」と思わせるものばかりです。着眼点がすぐれていることも重要な要素ですが、レトリック的にも「命令形」や「体言止め」に秘密があるような気がします。

そして最後にその文章。一文が短く小気味よいのは当然として、その比喩が秀逸なんです。上記のタイトルにある「…桃井かおりよ、ふつうに喋れ」のコラムの一部(最終部分)をご覧下さい。

SK2のCMは、すでにかなりの数のバージョンが作られている成功CMである。これは桃井かおりという人選に負うところが大きい。(中略)しかし最新作「色の白いは七難隠す」編はいかがなものだろうか。桃井かおりが自分で自分のモノマネをしているとしか思えない。「──にずゅっぷあすぇんつぉあっぷじぇそぉ」(20%アップでしょ)。桃井かおりに対しては20年以上封印されてきたひとこと「ふつうに喋れ」の発動の時がついに来た、と言ってもいいくらいの「かおり指数大サービス増量」だ。お腹いっぱいだ。もうわかった。

この「自分で自分のモノマネ」だとか「にずゅっぷあすぇんつぉ」といったあたりで、私は吹き出してしまいました。言い得て妙だなあと。この比喩や指摘は、誰もが感じていた違和感を見事に言い表しています。これを支えているのが文章のリズム。まるでそこにいて、つぶやいているかのような書きぶりです。関さん以降、このような論調や文章を見かけることが多くなりましたが、ここまでの切れ味はありません。やはり元祖は違います。

関さんは、2002年に惜しまれつつ亡くなりました。私自身、同世代だけに、当時少なからずショックを受けたことを記憶しています。もし彼女が存命だったとしたら、当時より混迷を深めている現在のテレビ業界をどのように論評したでしょうか。スポンサーや芸能事務所の縛りがより厳しくなった現在では成立しないかもしれませんが。

いずれにせよ、関さんの着眼点と文体は私にとって非常に参考になります。同時に、こうした小気味よいコラムを30代の時に量産していたという事実に驚かされました。ブックブログも一度でいいから、こんな小気味よいリズムで書けないものかなあと感じるこの頃です。

|

« おまけの話 | トップページ | 私たちのケータイ、ネットとのつきあい方 »

評論」カテゴリの記事

雑学・サブカルチャー」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/46209810

この記事へのトラックバック一覧です: 何がどうして:

« おまけの話 | トップページ | 私たちのケータイ、ネットとのつきあい方 »