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2009年9月17日 (木)

よいこととわるいことって、なに?

こども哲学 よいこととわるいことって、なに?」オスカー・ブルニフィエ文・クレマン・ドゥヴォー絵/西宮かおり訳/日本語版監修:重松清(朝日出版社)

本書は「こども哲学」というシリーズの第1巻。とはいえ発刊の辞を見ると、「自分や人生について本気で語り、考えたい人のための本」となっています。つまり子どもだけでなく大人にも読んで欲しいということでしょう。それがお題目でないな、と思えるのは、本書で設定されている巧みな問いかけと、美しく含蓄のあるイラストのおかげです。

「よいこととわるいこと」を考える軸として、以下の6つの問いが立てられていて、それぞれ「ルール」「やさしさ」「ききわけ」「ことば」「自由」「思いやり」のテーマが設定されています。

  • おなかがへったら、どろぼうしても いいとおもう?(ルール)
  • ひとに やさしくしようと おもう?(やさしさ)
  • どんなときでも おやのいうことは きかなきゃだめ?(ききわけ)
  • おもったことは なんでも口にするべき だろうか?(ことば)
  • いつでも したいことして いいのかな?(自由)
  • こまっている ひとがいたら、たすけてあげる?(おもいやり)

いかがでしょうか。どれも一見簡単に答えの出そうな問いばかりですよね。けれども子どもたちの答えに対して、ブルニフィエさんから鋭い再質問がなされます。たとえば「おなかがへったら、どろぼうしても いいとおもう?」については、こんな具合に。

こどもたちの意見 ブルニフィエさんの再質問
だめ、どろぼうはわるいことだから。
  • それがわるいことだって、だれが言ったの?
  • わるいことしちゃいけないのは、なぜだろう?
  • 生きてるあいだじゅう、いいことばっかりしてられる?
だめだよ、ひとのものはとっちゃいけないんだ。
  • おなかがぺこぺこで死にそうだったとしても?
  • それって、食べるものにこまってないひとのりくつじゃない?
だめだよ。おまわりさんにつかまっちゃうもん。
  • もし、だれもみてなかったら、どろぼうするの?
  • だったら、おまわりさんなんて、いなくていい?
のどから手がでるほどほしかったら、とっちゃうかも。
  • あれしたい、これしたいって気もちがわいてきちゃったら、もうさからうのはむり?
  • みんながしたいことしてて、世のなかうまくいくんだろうか?
  • これしたい!って気もちは、いつでも、きみのためになってる?
  • たべものがほしかったら、どろぼうするしかないのかな?

こんなやりとりをしてくると、「どろぼうしちゃ、だめ」という「考え方」が極めて危ういものだと気づかされます。つまりそれは「考え」ではなく、単なる知識の表出だったのです。考えているようで実は知識の表出、といったことは、実際よくあるのではないでしょうか。

本書のやりとりは、フランスのナンテール市の小学校で展開されたブルニフィエさんによる哲学の授業が元になっているようです。ですから子どもたちの反応にリアリティがありました。これらの再質問に、子どもたちがどのように回答したのかは本書に書かれていませんが、きっと大いに考えさせられたことでしょう。ブルニフィエさんは、この章の最後に「なぜ盗みが悪いのか」について解説した後、考えるポイントを次のように示しています。

  • 法律やルールが、世の中でどんな役に立っているのか、考えてみること
  • 正しいこと、よいこと、してもよいこと、この3つは、いつでもぴったり重なるわけじゃないって気づくこと
  • 世界のあちこちにある不公平と、きちんと向き合うこと
  • 法律はカンペキじゃない、変えることもできるんだ、って知っておくこと

冒頭でご紹介した、一見簡単な問いから、「考えること」についてここまで深くできるのだということに素直に感動します。他の問いから展開するやりとりについても、非常に興味深く読むことができました。
それから、D1000013どうしても触れておかなければならない本書の特徴があります。ブックデザインとイラストが非常に美しいということです。心の葛藤というのは、なかなか絵にしにくいのですが、説明的すぎる絵はしらけますし、抽象的すぎると意味をなしません。その点、本書のイラストは、間違いなく本書の魅力を上げる一要素になっています。(写真が下手でこの本の美しさが伝わらないのが残念です)

この「こども哲学」のシリーズは、全部で7巻出ているようです。私は本書しかまだ読んでいませんが、ぜひ他のシリーズも読んでみようと思いました。美しい絵に短い文でありながら、内容はとても深い、という特徴は共通していることでしょう。小学校の図書館にはぜひそろえて欲しいシリーズだなあと感じました。

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