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2009年10月 5日 (月)

日本を滅ぼす教育論議

「日本を滅ぼす教育論議」岡本薫著(講談社現代新書)

本書はタイトルの通り、教育論議について論じた本です。著者の岡本さんは、情報教育の推進政策にも関わった方ですので、ご存じの方も多いことでしょう。本書の概要は、前書きにわかりやすく書いてあります。

(臨教審が設置されてから)過去20年以上にわたり、政府部内だけでなく各方面において、このように様々な改革論議が長く展開されているにもかかわらず(中略)、日本の各界における教育論議の多くは、(中略)いたずらに「すれ違い」や「カラ回り」を続けている。本書は、(中略)その背景・原因を分析・整理したものであり、その目的は、建設的な論議を促すことのみにある。

確かに、有名なテレビの討論番組を見るまでもなく、日本の論議は、多くの場合すれ違っている場合が少なくありません。ことに教育に関しては、誰もが多少の経験を持っているだけに、素人がものを言いやすい環境があり、それが論議を複雑にしているように思います。
こうした問題を踏まえ、岡本さんは、現状の何がまずいのかを「失敗」をキーワードに、次のような目次立てで述べています。

  • 序章 「マネジメント」の失敗
  • 第一章 「現状」の認識に関する論議の失敗
  • 第二章 「原因」の究明に関する論議の失敗
  • 第三章 「目標」の設定に関する論議の失敗
  • 第四章 「手段」の開発に関する論議の失敗
  • 第五章 「集団意志」の形成に関する論議の失敗

これだけ見たのでは、なんだか機械的に設定された主張のように見えますが、実際には密接につながっています。その解説が、序章に端的に書かれているのでご紹介しましょう。

(次世代に向けた教育改革のためには)「現状」を正しく認識し、次に現状をもたらした「原因」を究明し、さらには具体的な「目標」を設定して、そのために有効な「手段」を開発・実施していかなければならない。また、そうした目標や方向を社会全体のものとし、手段を実施していくためには、「集団意志」の形成による政策化・ルール化を実現しなければならず、手段の実施後には「評価」を行って、次の段階に結びつけていかなければならない。

この一連の流れが「マネジメント」なのだと、岡本さんは述べています。つまり、日本の教育改革は「マネジメント」の過程すべてにおいて失敗しているのだ、と言うのです。なんだか厳しすぎませんか、と言いたくなります。
けれども岡本さんが、第一章以降で指摘している内容の多くは鋭く、首肯せざるを得ませんでした。

  • 日本には教育を神聖視する考えが根強いため、冷静で合理的な議論がなされない傾向がある。
  • 原因を特定せず、次の施策を追加する方向でしか「改革」を行ってこなかった。これは、水漏れしたタンクの穴を塞がず、さらに多くの水を注いでいる状態と同じ。
  • すべての子どもが最低限身につけるべき「目標」と、それ以上の「目標」とがごっちゃに議論されることで、上位の子も下位の子にも不親切な施策となっている。
  • 「教育や研修を行えば、不都合な事実は皆無になる」という、荒唐無稽な信仰があるため、問題が起こった場合に対処するすべがない。
  • 医学部では、医者が医師教育を担当しているのに、教員養成大学では、実際に教壇に立っていた先生は極端に少ない。
  • 「最後はお上が何とかしてくれる」という、いわば水戸黄門信仰とも言うべき考え方によって、ルールがルールとして機能しない場合がある。

私は本を読む時「なるほどなあ」と思ったところや「ここはポイントだな」というところでは、ページの角を折り曲げるのですが、本書では、折り曲げた場所が多すぎて、まとめるのが大変でした。岡本さんは、さすが元官僚だけあって、論点を明確にしてから整理して示す、というのがうまいなあと思います。おかげで、私の頭もずいぶん整理されました。

けれども一方で少し気になったこともあります。一つは欧米信仰とも言うべき論調です。確かに日本の教育論議は迷走しているものの、各国ともそれなりに問題は多いのではないでしょうか。欧米の良いところだけをピックアップして述べているのだとは思いますが。
二つ目は組織論に対する考え方です。組織の構成人員は、目標を定めて手段を講じれば成果が上げられる、という論調が気になりました。さらに、ある日本企業の社長さんが、「従業員満足を第一に考えている」と述べたことを痛烈に批判していますが、私はそれは違うと思います。人間は機械ではありません。そこには意志もあり感情もあるのです。

最後に批判めいたことを書いてしまいましたが、それでも教育論議の問題点をこれだけ端的にまとめた本は他にないでしょう。本書は、教育関係者なら一度は読んでおきたい本だと思いました。

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