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2009年10月29日 (木)

「渋滞」の先頭は何をしているのか?

「『渋滞』の先頭は何をしているのか?」西成活裕著(宝島社新書)

西成さんのことを初めて知ったきっかけは、「16歳の教科書2」という本です。この本に登場する6名の講師のとして、10代でどのような勉強をしてきたか、ということを解説しておられました。
学校を拒否して独学で東大に行ったという経歴もインパクトがありましたが、それ以上に「渋滞学」という学問を確立したというエピソードが印象に残っています。「渋滞」なんて学問になるのでしょうか。単純に車が多いから渋滞するのではないのでしょうか。

疑問に思いつつも、「渋滞学」は、いつも心にちょっとひっかかっていました。それゆえ本書を書店で見かけたとき衝動買いした次第です。

いったい渋滞学とは何でしょうか。西成さんは、「はじめに」の中で次のように書いています。

人間行動は科学の対象にならないのだろうか。複雑な心理がその行動に影響しているため、1人の人間がどう動くのかは予測不可能に近い。しかし、たくさんの人がいる時はどうだろう。前に進もうとしても、人がそこに立っていれば進めない。(中略)このように集団運動における確固たる法則を探し、それを基盤にして科学的に集団の行動を考えよう、というのが本書で述べたい「渋滞学」だ。集団になることで、人間の複雑な行動が制限される。混雑してくると、自分の思い通りに動けなくなるため、法則性が浮かび上がってくるのだ。

つまり「渋滞」とは結果状況を指す言葉ですが、「渋滞学」はそれ以前、渋滞を引き起こす人間行動の法則を科学するのが学問というわけです。なるほど。
しかし、であれば、ことは車の渋滞の話では終わらないのでは?と思っていたら、案の定本書では、様々な社会現象や自然現象を「渋滞」をキーにして説明しています。主なものをご紹介しましょう。

  • 美術展入場者、大行列の秘密
  • ディズニーランドに学ぶ、ストレスの少ない行列
  • アリの行列と渋滞
  • 「音楽」の渋滞、「笑い」の渋滞
  • 企業における「稟議書渋滞」「人事・昇進渋滞」
  • トヨタ生産方式と渋滞学
  • キャッシュフローに見る経済の渋滞
  • 体内の渋滞が引き起こす心筋梗塞とALS
  • 渋滞学が防ぐ伝染病

「渋滞」をキーに説明できる分野が、実に多岐にわたっていることがわかります。もちろん、自動車の渋滞については最も詳しく説明されています。運転する際、何があっても車間距離を40m以上空ければ、自然渋滞は起こらないのだそうです。そのメカニズムについては、ぜひ本書をご覧下さい。
自動車以外の渋滞についても、西成さんは提言を行っています。そのポイントを一言で表すなら「利他の精神」。各自がちょっとのエゴを捨てて、他人を気遣うことで、結局は自分にとってもメリットがあるというのです。まさに「情けは人のためならず」。科学を極めて行くと、こうした実に人間くさい部分がクローズアップされてくるという現象が面白いと思いました。理論物理学も、天文学も、突き詰めると仏教の話に似てくることに通じるような気もします。

西成さんが提言している分野を、学問で言い表すなら、生物学、生理学、医学、経済学、経営学、社会学といったことになるでしょう。これらはいずれも専門家が多数いる伝統的な学問です。西成さんは本書の最後に、渋滞学を通じて分野横断的な研究を進めたい、と書いています。複雑な現代に対応するためには、従来のような専門を深く掘り下げるだけではダメだというのです。「渋滞学を学問の『糊』にしたい」というのは、極めてわかりやすい比喩だと思いました。
複雑な現代を読み解くのに、一つのわかりやすい指針を与えてくれる一冊です。

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受信: 2010年3月 2日 (火) 19時05分

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