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2009年11月26日 (木)

アニメーションの世界へようこそ

カラー版 アニメーションの世界へようこそ」山村浩二:著(岩波ジュニア新書)

正直もうしまして、私自身、さほどアニメーションに興味があったわけではありません。書店の新書コーナーで立ち読みをしているとき、本書が目に留まったのです。新書には珍しく、カラーページがたくさんあることも驚きましたが、何よりその美しい絵とよくできた解説写真に心惹かれました。
ちょうど加藤久仁生さんが、「つみきのいえ」でアカデミー賞短編アニメーション賞を、日本人として初めて受賞していたこともあり、本書を読んでみることにしました。

本書では、まず「山村さんなりの」アニメーションの歴史が語られています。「山村さんなりの」とカギ括弧つきなのは、山村さんが「歴史の正確性よりも興味を持ってもらうための章」と書いておられるからです。「アニメーションの源流」として、山村さんは、次のような歴史的美術品を位置づけています。

  • アルタミラ洞窟の「五本足のウシ」(スペイン)
  • 法隆寺の「玉虫厨子」
  • 「鳥獣戯画」
  • 「バイユーのタペストリー」(フランス)
  • 「ファウスト博士」ルドルフ・テッファー(スイス)

「鳥獣戯画」がアニメーションの元祖、というのは、どこかで聞いたような気がしますが、正直「こじつけじゃないの?」と思っていました。けれども、これだけたくさんのルーツを示してもらうと、「昔の人も動きを表現したいという思いを持っていた」という主張は、十分納得できました。さらに山村さん自ら、これらの美術品を実際に複製した上で主張されているわけですから、ある意味これは作者の言葉です。説得力があるのも当然でしょう。
解説の中で印象的だったのが、アルタミラ洞窟のウシの絵の話です。現在、足の数を増やして走る様子を描くのは、マンガでは一般的ですが、有史以前からそうした技法が編み出されていたことに、素直に驚きました。また、玉虫厨子についても、これが国宝であることは知っていても、そこに何が描かれているか、本書を読むまでまったく知りませんでした。

こうして歴史を踏まえた後で、第2章では、山村さん自身の歴史が語られています。幼き日のアニメーションとの出会いから、初めての創作体験、仕事としての映像制作、国際大会でのグランプリ受賞までが簡潔に語られているので、アニメーションに関わる仕事に就くことを目指している中高生にとっては、参考になる話ではないでしょうか。

もっともこの部分にかかわらず、本書は「岩波ジュニア新書」として出版されているわけですから、そもそもアニメーションに関心のある「ジュニア」に向けて書かれています。けれども、子ども向けの本にありがちな、こびた表現や、上から目線の表現が、本書には一切ありません。大人向けの本と言っても差し支えないほどです。これは、「アニメーション=子ども向け」と思われることに対する、山村さんなりの抵抗のように感じました。

そうした傾向は、アニメーションの作り方の実際を解説する第三章、「山村浩二Q&A」と題した第四章でかなり顕著になります。難しい表現も入っていますし、仕事に対する哲学についても語られています。それがよくわかる表現を、Q&Aの中からご紹介しましょう。

  • 芸術的なアニメーションと商業的なアニメーションはどう違うのでしょうか。
  • 絵本とアニメーションを作るときの違いはどんなことですか。
  • アニメーション作品にはどんなメッセージを込めますか。
  • 国際的な活動をなさっていて、「日本人であること」についてどのように思われますか。

それぞれのAについては触れませんが、いずれもクリエイターを目指すティーンエイジャーにとって参考になることでしょう。最後に、山村さんが創作者の理想について述べている「あとがき」の一部をご紹介します。

言葉にはできない価値観をうまく作品として整えられた時、それは人の反応や評価を超えた、絶対的な充実感を与えてくれるものと信じています。それが一つの創作の目標であり、ぼくの理想です。

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コメント

NHKでやっていた「カロとピヨブプト」で
ヤマムラアニメにハマったクチです。

アニメに携わるヒトの自分語りには近寄らず、
むしろアニメで語ってくれと思うのですが、
この本の「歴史部分」は興味深いですね~。
激しくツボなエントリ、ありがとうございます^^

投稿: mani | 2009年11月26日 (木) 10時43分

maniさん、コメントありがとうございました。
私も「おかあさんといっしょ」でやっていた「パクチ」ではまりました。絶対外国アニメと思っていましたから。
で、本書ですが、文章があまり上手でないところがまたいいのですよ~。maniさんもきっとはまると思います。

投稿: むらちゃん | 2009年11月26日 (木) 23時26分

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