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2009年11月 9日 (月)

中学生からの作文技術

「中学生からの作文技術」本多勝一:著(朝日新聞出版)

およそ文章生成に関わる仕事をしている人なら、本多さんの代表作「日本語の作文技術」はご存じでしょう。私も新入社員の頃、その本を読んだ記憶があります。とはいえ、「記憶があります」という程度ですから、当然私の中で血となり肉となってはいませんweep。小難しい印象だけが残っています。

近年、業務上文章生成について考えるようになって、一度読み直した方がいいなあとは思っていました。そんなときに出会ったのが本書です。「中学生向けならちょうどよいかも」と考え、読んでみることにしました。

本書の帯には次のように書いてあります。

わかりやすい文章は自然には身につかない「技術」の習得が必要だ!
ロングセラー「日本語の作文技術」「実践・日本語の作文技術」から最低必要な「技術」を凝縮

つまり本書は「日本語の作文技術」のダイジェスト版。冒頭1ページにある「おことわり」にも、本書成立の経緯が詳しく書かれていました。それでも「はじめに」の部分は、本書のために書き下ろしたようで、「『作文』とは何か」と題して、およそ次のようなことが書かれています。

日本では作文の書き方を教えない。自分自身も教わらなかったし、現在でも似たような状況だろう。それでいて「話すように書く」「見た通りに書く」などといった暴論がまかり通っている。書くことによって意思の疎通を図るためには、そのための技術、たとえば読点をどこに打つか、などの技術が必要である。

確かに私が受けてきた作文教育では、「技術」は教えてもらいませんでした。提出した作文に、コメントを付けてもらう程度の「教育」だったように思います。唯一教えてもらった記憶がある技術は「会話文から書き始めるとよい」と手法です。けれども、この手法はあまりうまく行きませんでした。取り上げる会話文が的を射ていないと、不自然で珍妙な書き出しになってしまうからです。しかも当時私が所属したクラスでは、みんながこの方法で書くという、実に気持ちの悪い現象を引き起こしたことを覚えています。

本多さんが本書で紹介している「技術」は、単なるノウハウの伝授ではありません。すべて伝える文章を書くための技術です。ですから本書の8つの章は、すべて「伝わらない表現の例」「その原因」「伝わる表現の例」で構成されています。

  • 第1章 かかる言葉と受ける言葉
  • 第2章 かかる言葉の順序
  • 第3章 テンやマルのうちかた
  • 第4章 漢字の使い方
  • 第5章 助詞の使い方
  • 第6章 改行を考える
  • 第7章 無神経な文章
  • 第8章 リズムと文体

この構成は、「日本語の作文技術」と基本的には同じ(「漢字とカナの心理」と「作文『技術』の次に」という2つの章がないだけ)です。
本書を読みながら、昔読んだ時の記憶がよみがえってきました。当時の私には、各章の解説のほとんどが、頭に入りませんでした。理屈が勝ちすぎていて賛同できなかったり、自明のことに思われたりしたからです。けれども今本書を読んでみると、解説のほとんどは参考になることばかり。なぜもっと早く読まなかったのかとさえ思いました。

このとらえ方の違いは、年齢もあるでしょうけれど、文章を書いた経験の量、しかも誰かに伝えるための文章を書いた経験量が原因でしょう。伝えようとすればするほど、伝わらない苦しさを味わいます。答えは自分で導き出すしかありません。解決することもあれば、不安なまま世に出すしかないこともあります。こうした経験を重ねるうち、なんとなく自分の中に書く時の法則のようなものが芽生えてきます。

そんな状態になって、本多さんの「技術」を読むと、理解がまるで違います。逆に言えば、この「技術」は、文章に苦吟した経験がないと理解できないと思います。ですから、本書のタイトルは「中学生からの」となっていますが、おそらく多くの中学生には理解しにくい本でしょう。高校生でも難しいのではないでしょうか。記事のカテゴリを「ティーン向け」としなかった理由は、まさにこれです。むしろこれは、指導者向けの本ではないかと思いました。

学習指導要領の「言語力育成」という理念は結構ですが、指導の実際に落として行くのはなかなか大変なことだろうと思います。それを考えるのに、本書は一つの参考になるのではないでしょうか。本多さんは、本書のあとがきに「近いうち本書の続編として「小学生のための作文技術」を考えています」と書いていますから、期待しましょう。

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