« アニメーションの世界へようこそ | トップページ | 手塚治虫傑作選「家族」 »

2009年11月30日 (月)

学ぶ意欲の心理学

「学ぶ意欲の心理学」市川伸一著(PHP新書)

以前「やる気はどこから来るのか」という本をご紹介しました。意欲は、意志の力よりも、心理的要因によるところが大きい、といった内容の本です。この分野が非常に興味深かったことから、もう少し詳しく知りたいと思って購入したのが本書です。

意欲に関する本が数ある中で、本書に決めた理由は2つあります。一つは、2001年初版の本書が、私が購入しようとした時点で第8刷(2008年)になっていたからです。これだけ短期間で刷りを重ねるのは多くの人が読んでいるということ、つまり良書であると想像できます。もう一つは、冒頭の記述に興味を持ったからです。次のように書いてありました。

この本の趣旨は、「やる気」とか「意欲」というものが心理学でどのように考えられているのかを知っていただき、読者が自分や他者の学ぶ意欲について見直すきっかけにしてほしいということです。(中略)心理学の中でも「動機づけ(motivation)」と呼ばれて昔からさまざまな分野で扱われているテーマです。当然のことながら、心理学での考え方も一様ではありません。時代によって盛衰はありますが、百花繚乱といってもよいほどです。本書では、まず第1章でそれらを概略的に紹介すると同時に、私自身の最近の理論的枠組みも示したいと思います。

私はてっきり「やる気」は、心理学的にある程度解明されたものだと思っていました。それどころか「百花繚乱といってもよいほど」様々な考え方があるとのこと。それって結局「わかってない」と同義なのでは? と思いつつも、「概略的に紹介」してもらえば理解が進みそうです。
本書は、以上こんな理由で購入しました。結果的にその判断は間違っていませんでした。意欲に関する心理についてオーバービューできましたし、何より意欲について語る時の誤解や問題がはっきりしたからです。それは、本書の巧みな構成のおかげといってもよいでしょう。

第1章 動機付けの心理学を展望する
第2章 和田秀樹氏との討論
第3章 苅谷剛彦氏との討論
第4章 自分のやる気を引き出す環境づくりと意識づくり

私がユニークだと思ったのは、2と3の「討論」です。通常この手の新書で著者以外の方を取り上げる場合は「対談」であるのに対して、本書では「討論」となっています。つまり、この二方と市川さんの話し合いには、意見のぶつかり合いがあるのです。

まず和田さんとの討論について。和田さんは、精神科医にして、教育、特に勉強法に関する著書を複数出されている方です。本書では、和田さんの著書を巡って、主に動機付けに関する考え方について討論が展開しています。最も意見がぶつかったのが、「外発的動機と内発的動機」についてです。この部分、つきつめると複雑でよくわからないのですが、和田さんの著書で言及されている具体例について議論が進むため、非常に理解しやすくなっています。
一方、教育社会学者である苅谷さんとの討論は、「俗流の教育心理学が今の教育界に望ましくない影響を及ぼしている」という苅谷さんの論文とその背景となった認識を軸に展開します。俗流教育心理学の悪影響のわかりやすい例として、「新しい学力観」の文部省解説書などを挙げ、「教育心理学を都合良く解釈してきた結果みんなが間違えた」というのが苅谷さんの指摘です。これに、市川さんが教育心理学の立場で解説を加える、という形で討論が進みます。教育心理学のへの理解が進むとともに、私たちが陥りやすい誤りについて実感することができました。

こうした、「著者の考えに反対するような立場の方を招き、その方との討論を通じて本質を明らかにする」という本書の構成は、私にとっては新鮮でした。しかも非常に効果的だと感じました。討論の相手となった和田さんや苅谷さんは、本書においては、ある意味敵役になるにもかかわらず、登場することを受諾したのですからたいしたものです。

本書を紹介するに当たり、どの部分を引用しようかと考えましたが、本当に光る言葉がたくさんあって絞りきれませんでした。それだけ内容豊富な一冊です。教育関係者であれば必読の書と言えるでしょう。組織運営をされている方にも、必ず参考になります。
「俗流教育心理学」を展開してしまわないために、ぜひお読み下さい。

|

« アニメーションの世界へようこそ | トップページ | 手塚治虫傑作選「家族」 »

教育書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/46600281

この記事へのトラックバック一覧です: 学ぶ意欲の心理学:

« アニメーションの世界へようこそ | トップページ | 手塚治虫傑作選「家族」 »