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2009年12月21日 (月)

アサーション・トレーニング

改訂版 アサーション・トレーニング──さわやかな〈自己表現〉のために」平木典子:著(日本・精神技術研究所)

「アサーション」という言葉をご存じでしょうか。辞書で引きますと、次のように示されています。

assertion
【名】 〔…という〕主張〔that 節〕;断言,断定,所説∥
make an ~| 主張する.
(ジーニアス英和辞典)

ですから、私は「アサーション・トレーニング」という言葉を聞いた時、てっきりスピーチやディベートの練習手法なのかなと思いました。けれども心理学会等で関連の発表を聞く限り、どうも違うようであり、しかも面白そうな考え方です。そこで、入門書とおぼしき本書を読んでみることにしました。

アサーションとは何かということについて、平木さんは、本書の中で様々な説明と事例紹介を行っています。事例から理解するのが最もわかりやすいと思いますので、本書で取り上げられている事例を一つ、かいつまんでご紹介しましょう。

【事例】
あなたの息子(高校生)は、夏休みのある晩、友だちと花火大会に出かけ、夜中の2時に帰宅しました。あなたは12時には帰ってくると思っていたので、心配して、イライラしながら待っていました。
【反応例】
one帰ってきたのを見て、息子には何も言わず、黙って眠りに就く。
two「一体今まで何をしていたんだ! 今何時だと思っている!」といきなり怒鳴る。
three「とても心配したよ。12時に帰るって言ってたから気になってね。大丈夫なんだよね? 遅くなるって電話して欲しかったな」と、息子を責めないながらも、しっかりと自分の気持ちは伝える。

アサーション・トレーニングでは、oneのタイプを「非主張的」または「ノン・アサーティブ」、twoのタイプを「攻撃的」または「アグレッシブ」、threeのタイプを「アサーティブ」と呼ぶのだそうです。この事例の場合、みなさんなら、どのように反応するでしょうか。私は間違いなくtwoです。そしていつも後悔していますcrying。つまり、アサーションとは、辞書にある通り「主張」という意味なのですが、ディベートのように相手を論駁するような主張でも、けんか腰で感情をぶつける主張でもありません。「相手を尊重しながら自分の意見をしっかり伝えるコミュニケーション」である、と言えそうです。

「ああ、そういうことならできてます。必要ありません」とお感じになる方も多いでしょう。けれども、どんな場合でも「常に非主張的」あるいは「常に攻撃的」あるいは「常にアサーティブ」という人は少ないのだそうです。だからこそアサーションの難しさを知り、アサーティブな考え方を身につけ、トレーニングすることが大切なのだと平木さんは言います。

このうち、最も難しいのが考え方の変更でしょう。私たちはつい「○○でなければならない」「絶対に○○してはいけない」などと、固定的教条的な判断基準を持ちがちです。そしてその基準に縛られて円滑なコミュニケーションができない場合があります。たとえば、「人は誰からも愛され、常に受け入れられるようであらねばならぬ」と思い込む場合です。これは一見正しい考え方のように思えますが、すべての人に愛されるのは不可能なため、行動に必ず矛盾が生じます。矛盾は、自分の行為や言動を抑制することにつながり、「非主張的」ふるまいにつながってしまうのです。本書では、こうした私たちが陥りやすい「一見正しい考え方」がいくつか紹介されていて、はっとさせられます。
そしてさらに大切なことは、そうした考えを持っている相手に出会った場合、それを否定したり変更を強要したりしないのがさらに重要なのだそうです。否定や強要は「攻撃的」コミュニケーションにつながるからでしょう。

以前「子どもの認知行動療法」という本を紹介しましたが、さしずめ本書は「大人の認知行動療法」ということができそうです。自分や相手の気持ちや考えを冷静に分析し、相手を尊重しながらも、伝えるべき事はしっかり伝える──実際にやるとなると、相当難しそうです。ですから「じゃあ、実際どうやれば身につくの?」という疑問が生じます。本書のタイトルは「アサーション・トレーニング」となっているものの、具体的なトレーニングについての記述はありません。その代わり、この出版社によるセミナーやワークショップの案内が本に挟まっていましたcoldsweats01。本では身につけにくいということなのかもしれません。

本書で述べられているのは、アサーションの考え方と、具体的スキルです。この二つが、繰り返し違う切り口で紹介されています。考え方を理解するには正しい方法なのかもしれませんが、少々退屈な構成のようにも感じました。正直もう少し情報を整理すれば、もっと読みやすい本になったのに、と思わないでもありません。とはいえ、入門書としては、考え方をじっくり身につけることが最優先なのでしょう。実際私もある程度理解することができました。問題は、今後私がアサーティブに振る舞うことができるかどうかです。覚悟を問われた一冊でした。

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コメント

いつも楽しい本の紹介をありがとうございます。『日本で一番大切にしたい会社』は本当に良かったです。

さて、ディベートを指導している者としてちょっと誤解を解いておかなければなりません。

>>ディベートのように相手を論駁するような主張でも、けんか腰で感情をぶつける主張でもありません。

とありますが、ディベートは相手を論駁するコミュニケーションスタイルではありません。相手を論駁して相手の行動に変容を求めるのはディスカッションです。ディベートは相手に論駁をしませんし、変容も求めません。

ディベートは、ジャッジを説得するコミュニケーションスタイルです。また、肯定側なら肯定側で試合の最中はずっと立場を変えることはありません。

ここは良く誤解されるところですが、大事なところなので書かせていただきました。

投稿: 池田修 | 2009年12月21日 (月) 14時23分

池田先生、コメントありがとうございました。
なるほど、確かにディベートで相手が説得されるということはありませんね。審判を説得するというわけですね。失礼いたしました。
こうして間違いを正していただけると助かります。

投稿: むらちゃん | 2009年12月21日 (月) 21時07分

ありがとうございます。

ですので、私のディベートの師匠の西部直樹さんは、アサーションのレッスンの講座も開いています。

http://www.sentanjuku.com/kousi2004/n-nishibe.htm

投稿: 池田修 | 2009年12月22日 (火) 13時39分

池田先生、重ねまして貴重な情報をありがとうございます。これを機会に私も勉強させてもらおうかと思います。

投稿: むらちゃん | 2009年12月22日 (火) 17時13分

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